ヒスタミンと鬱

2021年8月17日
Imperial College London


現代心の病で最も注目されているのは鬱であるが、この病気を引き起こす原因にヒスタミンがあるらしい。

体は外部から侵入する細菌に対して戦いを挑み、その時ヒスタミンを分泌して炎症を起こす。炎症は患部に免疫細胞と血流を送り込む。炎症は細菌に対する戦いに欠かせない反応であるが、時として鬱の発症原因にもなるらしい。炎症は細菌感染ばかりでなく、ストレス、アレルギー反応、糖尿病、肥満、アルツハイマー病、パーキンソン病等からも引き起こされる。

「炎症が鬱を引き起こす可能性はある。強い炎症を起こしている鬱病の患者は、抗鬱剤には反応しないからだ。われわれの研究では、ヒスタミンが重要な役割をしているらしい。このヒスタミンをコントロールすれば鬱を改善できる可能性がある」とインペリアル・カレッジ・ロンドンのパラストー・ハセミは言う。

神経伝達物質の役割
セロトニンは気持ちを良くする神経伝達物質として知られていて、現在その量を増やすSSRIが広く使われている。しかしSSRIに反応しない人がいて、その理由として、神経伝達物質間の相互作用が原因ではないかと言われている。

今回の研究では、ヒスタミンとセロトニンの相互作用を調べた。微小電極を作成して生きているネズミの扁桃体に埋め込み、動物の扁桃体中のセロトニンのレベルをリアルタイムで観察した。

微小電極を挿入後、ネズミにリポ多糖類を注入する。この物質は細菌が生産する炎症を起こす物質で、コントロールグループには単に生理食塩水を注入する。

リポ多糖類を注入するとネズミの脳のセロトニンのレベルが数分の内に低下したのに対して、コントロールグループではそれが起きなかった。体内の炎症作用が急激にセロトニン分泌の低下につながったのだろう。リポ多糖類は脳血流関門を通過しないので、この現象は体の炎症反応によるものだ。次に脳内ヒスタミンは直接セロトニンの分泌を抑制していた。ヒスタミンの分泌とセロトニンの抑制は人間でも起きている。

このヒスタミンによるセロトニン抑制を解くために、研究ではネズミにSSRIを処方してセロトニンの増加を試みた。しかしセロトニンの上昇はコントロールグループに比べて低かった。原因として、SSRIが脳内のヒスタミンのレベルを上げてセロトニンの上昇を抑えたのではないか。

そこで研究者はネズミにSSRIばかりでなくヒスタミンを下げる薬を与えると、セロトニンはコントロールグループと同じレベルに回復した。これはヒスタミンが直接セロトニンの分泌を抑制している証拠である。アレルギー反応を抑える抗ヒスタミン薬は、神経細胞に働きかけるのに対して、このヒスタミンを抑制する薬は体全体にヒスタミンを抑制する。

ヒスタミンを下げる薬の追及
この結果が人間に応用出来るなら、今後は脳内のセロトニンとヒスタミンを測定して鬱を診断する事になる。ヒスタミンが鬱を起こす原因物質と分かれば、それを下げる新しい抗鬱剤の開発につながる。
微小電極を人間に使う事は出来ないので、人間に応用するにはまだ時間がかかりそうである。痛みも炎症を引き起こし、神経伝達物質のレベルを変化させる。しかし今回の研究でははセロトニンを低下させる原因にはなっていなかった。

「炎症とは体全体の反応であり鬱も体全体の反応で複雑です。神経伝達物質の分泌は遺伝子、環境両面から影響を受ける。結論を引き出すには未だ時間がかかると思う」とハセミは言う。



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