ごみ屋敷患者の脳

2012年8月7日
何故、ごみ屋敷の住人は、ガラクタをあれだけ集めて住むのであろうか。

今度発表された研究では、彼らの脳は健康な人と比べて、脳のある部分が健康な人とは違った反応をするのが分かった。今まで、ごみ屋敷症候群は強迫行為か強迫行為に属するサブグループ程度に考えられていたが、脳の反応を見ると強迫行為とは異なる。  

「ごみ屋敷症候群は多くの面で大変ユニークな症状で、この研究は我々に貴重なデーターを与えてくれた」とニューヨーク・アルバート・アインシュタイン医学校のエリック・ホレンダーは言う。彼は、ごみ屋敷症候群は通常の強迫行為に入れるのではなく、強迫行為に近い別の分類に入れるべきであると主張している。
実際、間もなく発表される新しい”精神障害の診断と統計の手引き(DSM-5)”では、ごみ屋敷症候群については別の診断基準が提案されている。

今回”The Archives of General Psychiatry”誌に発表された研究では、コネチカット・ハートフォードの精神病研究所のデービッド・トリン氏が、107人の被験者を募りfMRIを使ってテストをした。107人のうち43人はごみ屋敷症候群で、31人は強迫行為、残りの33人は健康な人であった。
被験者は自分の家から広告チラシや古い新聞紙を研究室に持ち込み実験をする。彼らはfMRI装置の下に寝て、持ち込んだチラシや新聞紙の写真を見ながらを捨てるかどうかを聞かれる。

当然、ごみ屋敷症候群の人たちは、強迫行為や健康な人に比べて捨てるのを拒否した。拒否したと同時に彼らの脳は他のグループとは違った反応を示している。彼らの前帯状皮質が過剰反応していたのだ。この部分は意思を決定する時に活躍する部分で、特に判断がつかなかったり、不確かな時に活発に作動する。 島皮質も活発化していた。この部分は自分の感情や体の調子をチェックしている。同時に不快、恥等の不愉快な感情にも関連している。この2つの脳の分野は、共同して自分の所有物の重要さを推量している。

「ごみ屋敷症候群の患者は、自分の持ち物の1つ1つに価値決定が出来ない状態にあるのでしょう。実験でも患者がものを処分する時、間違いを監視する脳部分が活発化していた」とハーバード大学の強迫行為専門家であるマイケル・ジーナイクは指摘する。彼らは自分の持ち物の処分決定が困難になっているのを示している。

「彼らは、将来使うことができるのに捨てる辛さを感じている。不安や悲しさは通常よりかなり高い」とホレンダーは言う。

面白いことに、彼らは他人のごみを処分する時も同様に前帯状皮質や島皮質が反応しているが、この場合はその反応レベルが異常に低かった。この低いレベルの反応は、他人との関係が切れて執拗に繰り返し行為をする自閉症の患者に似ている。また、彼らがごみの山に住んでも一向に気にしない原因にもなっているのだろう。

ホレンダーは、ごみ屋敷症候群の患者のごみ収集癖を車の警告ランプに比喩する。運転していてダッシュボードにエンジン異常の信号ランプが理由もなく点灯したとする。健康な人はこのランプを無視するが、ごみ屋敷症候群の人たちは無視できない。

「ごみ屋敷症候群と強迫行為に共通するのは、この警告ランプが頭で点灯すると、次第にその警告が激しくなることです。それが激しくなればなるほど、日常の生活は停滞し、通常の生活は維持できなくなる」とホレンダーは言う。
ごみ屋敷症候群の人たちは、野暮だとか異常収集癖というのではなく、人が簡単に処分できるものができなくなっているのだ。

ホレンダーはこの発見が治療に大きな役割をすると考えている。現在使われている経頭蓋磁気刺激法装置は、脳のすべての領域には届かないから使えないが、新しいタイプの装置なら有効かも知れない。ごみ屋敷症候群の治療に、脳の島皮質を刺激する可能性が出てきた。



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