統合失調症では、脳内で神経伝達物質を作る遺伝子のスイッチが時々オフになるために起きている可能性がある。前頭前野皮質が発達する段階ではこの遺伝子のスイッチは次第に活発にオンになるが、統合失調症の患者の脳ではこのスイッチのオン状態が活発になっていなかった。所で前頭前野皮質とは高度の思考と決断をする脳の高等部位である。 遺伝子GAD1はガンマーアミノ酪酸(GABA)の生産に必要な酵素を作る。この遺伝子がより多くオンの状態になるとガンマーアミノ酪酸が多く生産される。ガンマーアミノ酪酸は、神経細胞間で交わされる信号の量をコントロールする重要な脳内神経伝達物質の1つである。 統合失調症では、脳の発達段階での障害とガンマーアミノ酪酸合成の障害が今まで指摘されて来たが、そのメカニズムは分かっていなかった。今回の研究で、統合失調症の発症には後成的反応の欠陥、即ちGAD1酵素の生産を促す遺伝子スイッチに障害が発見された。 今回の発表はシャラム・アクバリアン、シェンスン・ファンとマサチューセッツ医大、ベイラーカレッジ医大の研究チームが「神経科学誌」10月17日号に発表した。 「この発見は統合失調症の研究に新しい一歩を与えた。統合失調症の発症にはGAD1酵素の減少とガンマーアミノ酪酸の障害が絡んでいる。何故この現象が起きるか、そのメカニズムを解かないとならない」とインセルは言う。 もう1つの酵素のMll1も後生的役割をしている。遺伝子のスイッチがオンになるには蛋白質のヒストンの構造が一時的に変化する必要があり、その結果DNA上の遺伝子青写真が露出する。統合失調症の患者では、酵素Mll1の動きが変化していて、ヒストンの一時的構造変化が起きていないと研究では言う。ネズミの実験では、統合失調症治療に使われるクロザピンが、この後生的欠陥を補正していた。 新しい統合失調症薬を開発するには更に詳しい分子メカニズムを知る必要がある。クロザピンを始めとする現在投与されている薬は効果もあるが副作用も強く、新薬が期待される。 GAD1遺伝子の他の3つの変異体も脳の発達段階で障害を起すと、今回の発表は言う。それら変異遺伝子もガンマーアミノ酪酸の合成過程で障害を起していた。 「統合失調症は発達障害であり、前頭前野皮質が完成する直前に何等かの障害が起きて発病すると考えています。その障害が何かが見えて来た。予防と治療の可能性があると思う」とアクバリアンは言う 脳科学ニュース・インデックスへ |