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カリフォルニア大学シーメル研究所は、鬱状態の人の脳では脳全体が固まるように連結していて、そのため思考の柔軟性を低下して脳の機能を十分出せなくしているのではないかと報告している。 この研究を指導したシーメル研究所のアンドリュー・リーチター氏は「鬱病は脳全体の病気で、脳の一部がうまく作動しないから起きているのではなくて、脳全体がうまく作動しなくなっている」と言う。 コロンビア大学のジョイ・ハーチは「脳の各部位の連絡状態は脳の情報処理の基礎になっているが、この発見によると鬱状態の人ではその結合が強すぎて、情報の処理が追いつかなくなっている」と言う。 リーチター等は脳波計(EEG)を使って、被験者が横たわって安静状態でいる時の脳の電気活動の変化を調べた。 脳波計とは、被験者の頭皮に電極を貼り付けて測定するもので、伝統的計測方法である。1940年代に発案されて、脳の瞬間瞬間の動きを調べる最も古いやり方であるが、近年流行のfMRIより勝る点が数々あり用いられている。 fMRIの場合はマグネットの大きな機器の下に横たわり、脳の血流を調べる。fMRIを使っての鬱の研究はたくさん行われているが、調べる部位は扁桃体とか前部帯状回のような局部であった。 この脳の局部領域を詳細に調べて、何か不自然な動きがあれば、それが鬱状態に関係するのではないかと考えられた。だから研究者は脳の微細構造の専門家、あるいはある種の神経伝達物質の専門家になる必要があった。 今回の研究では、被験者の脳全体に電極を貼り付けて、加重脳分析と呼ばれる方法で分析した。その結果、121人の鬱病患者の脳ではその全員に、周期的で同時発生的電気振動が観測された。同じ振動数の電波が周期的に脳の各部位から同時に発せられていると言うのは、ちょうど脳全体ががっちりかみ合ったギアーのように作動していることを示している。 このギアーのように固まった脳が鬱状態の人の脳の特徴で、対照に選らんだ健康な人達には見られなかった。「この現象を発見したときは本当に目からウロコでした。鬱状態の脳では、脳全体がまさにがっちり固まっている印象なのですね」と彼は言う。 過剰に連結しているとは、ある脳部分が他の脳部分と旺盛に情報を交換しているのであり、必ずしも問題を起こしているとは言えなが、「それには共振が必要に応じて停止出来ることが前提です」とリーチターは言う。 「もし脳が共振現象を解く事ができなくなると、必然的に機能不全を起こしてしまう。脳全体が同時につながってしまうとは、一部の脳が自由に活動できなくなることを意味している」と彼は言う。 鬱病を脳全体の問題ととらえる専門家はリーチターだけではないが、この研究がさらに鬱病の理解を進めるのは間違いない。 個々の患者の症状と脳の結合状態の関係が具体的に分かると、鬱病の病理解明が一歩進むであろう。 脳科学ニュース・インデックスへ |