2018年7月24日
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妊娠中の女性が炎症を起こすと胎児の脳の発達に影響がある事が分かった。炎症により、胎児の脳の神経細胞同士の連絡が悪くなる事、特に脳の離れた場所の神経細胞同士の連結に問題が発生すること、一歳時で認識力の遅れが生じること、二歳時で衝動の抑制が弱まる事、作業記憶が低下する事等を報告している。 炎症と心の病気 炎症は細菌感染に対する体の防御機構であるが、肥満、食生活、薬物、産後鬱、貧困、ストレスからも起きる。 一般に炎症は問題を起こさないが、妊娠女性では新生児の脳に影響する。妊娠中にインフルエンザにかかると、子供が躁鬱病になる確立が4倍になると言う研究もある。統合失調症では3倍から7倍と言う。胎児の脳は微生物に影響されないが、母親のインフルエンザ炎症反応に影響される。ある種の自閉症とか注意欠陥多動性障害も炎症と関係があると言う。 脳スキャンかれ得られた証拠 炎症は今までも疑われていたが、具体的な証拠が得られなかった。しかし、最近脳スキャンを使った研究で分かり始めた。その研究の一つが、炎症メッセンジャーと言われる IL-6の血中濃度と新生児の脳の変化だ。 研究では、妊娠女性 84人のIL-6レベルを測定し、彼女達の子供の脳の発達、子供の行動を調査した。脳スキャン (MRI) は子供が寝ている時に取ると、一番よく脳の神経細胞ネットワークの状態を調べることが出来ると言う。 その状態で写真を取る事で、前頭前野皮質と脳の末端の細胞の連結及び成長を調べる事が出来た。 炎症と回路作成、作動記憶 ” Nature Neuroscience ”誌に掲載されたベルリン・シャリテ医科大学のクローディア・バスによる報告によると、 IL-6のレベルが高いと、生まれたての子供の脳の神経回路の連結が弱い事、2歳の時点で作業記憶の容量が小さい事が報告されている。 神経回路の連結が十分でないと、作業記憶の障害につながり,それは幾つかの心の病気の発症原因になる。また衝動の抑制にも問題が生じる。 コンピューター自身が学習するAI技術を使い、生まれたばかりの赤ちゃんのMRI画像から、妊娠時の女性の炎症、2歳時での作動記憶が推測可能になった。「妊婦の炎症をいち早く捉えて治療を加えれば、脳発達の遅れを止める可能性がある」とアメリカ国立精神衛生研究所のジュリア・ゼールは言う。 炎症と急激な回路の成長、認識の遅れ IL-6のレベルが高いと、生後一年間で、比較的距離の遠い脳の神経細胞回路の成長が加速されるようだと研究では述べている。 生まれる前の成長の遅れを取り戻すかのような現象で、これが1年後の認識力の遅れに結び付いている。同じ現象が自閉症スペクトラムでも見られた。 扁桃体が大きい事と衝動抑制の弱さ 「女性の高いIL-6レベルが、子供が2歳になった時の衝動抑制の弱さにつながっていた。 IL-6のレベルが高いと、子供の扁桃体のサイズが大きくなり、それが衝動抑制の減退につながったのだろう」 と"Biological Psychiatry"誌上でとベルリン・シャリテ医科大学のクローディア・バスは述べる。 「IL-6は正常な脳の発達に大変重要な役割をするから、これをいじりたくない。IL-6がどのレベルになるとマイナスの影響が出始めるのか調べて見たい。今は既に IL-6 レベルが上昇した女性について研究する」とバスは言う。 脳科学ニュース・インデックスへ |