恐怖反応は扁桃体だけではなかった

2013年2月4日

アイオワ大学の研究によると、扁桃体を欠損した患者にパニックを引き起こす炭酸ガス混合空気を吸引してもらったところ、その患者は吸引前には何の不安がないにも関わらず、ガスを吸い込んだ数秒後にパニックの症状を示した。この患者はコードネームでSMと言い、40歳代のウルバッハ・ビーテ病を患った人で脳の扁桃体に重大な障害を負っているため、彼女は発病以来恐怖を感じたことがない。

2月3日の”Nature Neuroscience”誌に発表された研究によると、扁桃体は従来言われているような恐怖すべての中枢ではないのが分かった。体の内部から発生する危険信号には脳幹、間脳、島皮質等が反応するではないかと考えられている。

「この研究から分かるのは、パニックのような激しい恐怖反応は扁桃体以外の脳の反応でもあり得ることを示していて、少しずつパニック障害の原因が見えてきた」とアイオワ大学の精神医学の助教授であるジョーン・ウェミー氏は言う。

もしそれが事実なら、扁桃体以外の脳をターゲットにしたパニック障害、PTSD、不安症等の治療の道が開ける。「我々の発見が心の病気の解明につながると思う」とアイオワ大学の神経学教授であるダニエル・ツラネル氏は言う。

過去何十年も、扁桃体は外部からの脅威に対して恐怖を発生する重要な役割をすると言われてきた。実験対象になった患者SMさんは扁桃体に障害があるため、ヘビ、クモ、ホラームービー、幽霊屋敷等いかなる外部刺激にも恐怖を感じない。彼女自身一度賊に襲われナイフで脅迫されたときもあったが、恐怖を経験していない。

研究では患者SMと、他の2人のやはり扁桃体に損傷を負った患者に実験台になってもらい、炭酸ガス35%の空気を吸引してもらった。この炭酸ガス35%の空気は一般にパニック引き起こし、症状は30秒から1分ほど続く。尚三人は全員女性である。
実験でもガスを一回大きく吸うと、彼等は典型的パニック症状を示した。大きくあえぎ、心臓の鼓動はあがり、苦しみのあまりガスマスクを脱ぎ捨てた。実験の後、彼等はこんなパニックになったことは初めてと言った。

「彼等は生命の危険を感じたのです」とアイオワ大学の臨床神経精神医学のジャスチン・ファインシュタイン氏は言う。ウェミーは2009年の”Cell”誌の中で、ねずみを使った実験では、ねずみの扁桃体が炭酸ガスを直接検知して恐怖を発生していると発表している。彼はこの同じメカニズムを人間でも得られると期待した。

「扁桃体を欠損した患者が炭酸ガスでパニックを引き起こしたのは驚きだった」とウェミーは言う。健康な人を被験者にした実験では12人中わずか3人だけがパニックを経験している。この数字はパニック障害でない一般の人の数字と一致する。3人の扁桃体を欠損した患者は今までパニックを経験したことがない人たちであるから、おそらく健康な扁桃体はパニックを抑える役割をするのであろう。

興味があるのは、扁桃体に損傷ある患者ではテスト直前には何ら不安を示さないのに対して、一般の人では実験直前に冷や汗や、心悸高進を経験している。これは扁桃体が外部から迫る脅威に対して反応しているのを示している。
「外部から迫る情報は扁桃体で一端ろ過されるのに対して、危険が体の内部で感知される場合は、体自身が原始的恐怖を発生するのでしょう」とファインシュタインは言う。


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