インターネット依存症

2019年6月12日


2010年の夏のある日、私がケンブリッジ大学で講義した後、ダニエル・バーグと言うスウェーデン人の大学院生が私に近づいて来た。
講義ではインターネット依存症について話したのであるが、それが彼に衝撃を与えたらしい。彼によると、ストックホルム大学の多くの友人が今は大学を中退し、粗末な部屋に籠り、オンラインゲームに熱中している言う。
「どんな風だったの」の聞くと「不安と焦燥の中で、とにかくやりまくってました。経済の歴史を取る大学院生の中で、男は私だけです」と答える。

一時的喜びを求めて、やましい行為をやり続ける症状を依存症と言うが、彼らこそ依存症であった。ゲーム依存症はスウェーデンでは特に男性に多いらしい。
私のフロリダの大学では、むしろ女子学生のスマホを弄る姿が問題になっている。でもこのスウェーデン人学生の話をフロリダの大学生に話したら、フロリダでも同じだと言う。ある学生はゲームのために1年浪人していて、その障害から今回復しつつあるが、まだ危ないと言う。中にはゲームに熱中するために、尿瓶を横に置いてゲームをやり続ける人がいるらしい。

1970年代では、依存症と言えば麻薬、ギャンブルであったがここ40年でインターネットオンラインに変化した。最近のドイツの性カウンセラーによれば、インターネットでポルノ依存症になる若者が多いと言う。今アメリカでは、砂糖の多量摂取が問題になっているが、コーラを多飲するのも麻薬吸引と同じとしている。

以前、ある若いニュージーランドの女性が、一日10リッターのコカ・コーラを飲んで、不整脈で死んだのニュースがあった。
19歳の中国の学生ドロップアウトが、インターネット依存から抜け出すために、自分の手をたたき切ると言う事件を起こしている。中国でもインターネット依存症は深刻で、政府関係者のための治療専門のキャンプを作ったと言う。
台湾では、子供に野放図にインターネットゲームに熱中させる親に罰則を与える国会決議をしている。アメリカでは、2000年代の初めで、依存症と判断されるアメリカ人の数が47%と出ている。

専門家は、行動の依存症と麻薬依存症は似ていて、自己抑制の欠乏、渇望、陶酔、止めると離脱症状が共通点だと言う。2013年に発表された精神障害の診断と統計マニュアルDSM-5では、ギャンブル依存症を加えている。2018年にはWHOが、ゲーム依存をゲーム障害として付け加えている。

リバタリアンは、インターネット依存症を単に個人の忍耐力の欠如と言い、社会科学者は医療帝国主義の現れと表現して依存症の言葉を嫌う。哲学者はあやふやな表現だと言うかも知れないが、私は依存症で良いと思っている。一番簡明で、誰にも分かりやすいからだ。
では何故この依存症が最近問題になって来たか。

デジタル依存症
インターネット依存症と食べ物依存症は驚くほど似ている。
先進国では今何処でもインターネットのアクセスが可能であるから、インターネットの誘惑を断ち切るのは難しい。カウンセラーは、問題のアプリを使わないこと、インターネットの過度の使用を止める事と言い、他の依存症対策と同じだ。

インターネット依存症の数は増え続けていて、アメリカとヨーロッパで2009年の時点で8.2%が依存症と言われていて、これはスマホが現れる前だから、今はそれより高いはずだ。中国での調査では、依存症は人口の6.4%で、台湾大学の新入生では18%であった。先進国ではインターネット依存症は深刻で、特に青少年ではその数値が高い。

インターネットを見続けることが果たして依存症であるかどうかは、抑制した時に分かる。2010年に、世界10か国1000人の大学生を対象に、24時間一切インターネットを使わない生活をして貰う実験があった。その結果、戸惑い、落ち着きのなさ、退屈、孤独、不安、鬱状態を参加者が報告している。多くが率直にインターネットの使い過ぎ傾向を認めていた。

インターネットの使用は過度にならなければ有益であるが、過ぎれば有害である。スマホの使い過ぎは、スロットマシンを回し続ける行為と同じで、やる気を起こす程度なら良いが、現実から逃避するようになると生活が破壊される。依存症の行きつく先は、学校の中退、仕事の喪失、夫婦崩壊、裁判所からの命令となる。

リバタリアンと医療に疑いを持つ人たちは、スマホ中毒の治療なんて意味がないと言う。インターネット見過ぎが依存症であるかどうかには、未だ異論がある。何故ならインターネットの使用は薬物摂取と違って行動が複雑だからである。
インターネット上には、ポルノサイトあり、ギャンブルあり、ゲームあり、チャットルーム、ショッピング、ソーシアルメディア、ありとあらゆるウェッブサイトがある。中でも、男性と子供はオンラインゲームとポルノにのめり込み、女性はソーシアルメディアとショッピングが止まらない。

見逃す恐怖
インターネット依存症の判断を難しくしているのは、その目新しさであり、カメラ付きスマホを使ったSNS利用にある。

特徴を3つ上げると、
第一は、何時でも何処でもインターネットに連結出来て、性能の良い携帯機器で楽しい遊びを可能にしていること。
今やスマホを見続けるのが社会現象になり、交通事故の増加になって表れている。殆どの人が子供のスマホの使い過ぎを心配し始めた。
第二に、インターネットの蔓延は、伝統的悪である麻薬、ギャンブル、売春、ポルノの伸張に一役買っていること。
第三に、スマホのアプリは企業の最大の収入源で、密かに個人のデーターを収集している事。一人のコンピューターを見つめる人がいると、そこに数千の専門家が彼の行動を監視していると倫理家のトリスタン・ハリスは言う。

上に挙げた問題点を、ジャーナリストであるナンシー・ジョー・セールスが既に述べている。セールスは、13歳から19歳の200人のスマホを使う女性にインタビューして、どれほどフェースブックやツイッターが影響しているか調べた。驚く事に、中には一日9時間から11時間見ている人がいて、これだけ見続けると問題が起きる。写真のアップロード、ダウンロード、メッセージの送受信、ツイッターのやり取りは全て人をくぎ付けにする。

特に自分が情報交換の渦中にある時、アクセスできないと強い不安を感じるが、これを”見逃す恐怖”と言う。男の場合はポルノの見過ぎで勃起不全になる。
あるアイビーリーグの学生が言う事には、学生が勃起不能になるのはポルノの見過ぎだと言う。

過去1世紀を振り返ると、3つのセックス革命があった。
一つは避妊で、これでセックスする事と子供を産むことが分かれてしまった。
二つ目はインターネットポルノにより、肌と肌が接触しなくてもセックスが楽しめるようになった。
三つ目は、インターネットによる距離感から、セックスが求愛行動や結婚に結び付かない。もし、セックスが簡単で何時でも出来るなら、デートも必要ないし、結婚指輪は要らないことになる。

2006年には、フェースブックは単なる遊び場所であったが、10年後には10億人が毎日使うようになり、それは世界のインターネット人口の40%に当たる。今やフェースブックは世界5番目の資金規模の会社である。

何故これほど急激に変化したか。
SNSのプラットフォームをつくる専門家が、人を夢中にさせる技術を使うからだ。食べ物依存症では、砂糖と塩、油の絶妙なコンビで人を癖にさせるが、 SNSでは心理メニューを使う。予想の難しさ、刺激的反応、進歩の速さ、習熟する喜び、決断力、緊張、同士との連帯等がそれだ。

「ゲームに沈潜した当時は、仮想空間で常に人と張り合っていた」と以前クレムソン大学で英語を教えていたライアン・バン・クリーブは言う。彼もオンライン・ゲームに夢中になり、毎週60時間費やしていた。結局ゲームのために大学を失ったが、ゲームを止めると冷や汗、むかつき、頭痛に襲われた。

「フェースブックは私の人生最大の気晴らしであった。でもあまりのめり込み、作家としてやっていけなくなった」と作家のゼイディー・スミスは言う。
小説家であるジョナサン・フランゼンは、インターネットを見ながら良い小説を書くなんて無理だ言う。
教育関係者は、学生がスマホを頻繁に使う姿からは良い授業は考えられないと言う。最近の研究でも、スマホの使い過ぎと学業の低下を指摘している。心理学者は、スマホ漬けになっている人は認識力が低下していると言う。

スマホが光る時がインターネットに引き付けられる瞬間だ。最近"時間の浪費"なる言葉がよく使われているが、スマホが光る時が時間の浪費の開始になる。
アメリカ・アル中予防研究所のジョージ・クーブは、「アル中ではアルコールを希求するが、飲んでも気分が晴れないからもっと飲む」と言う。

ローレン・ブリチターは、スマホをスワイプして情報を更新する技術を開発した人であるが、その彼が、発明をしなければ良かったと言う。
いいねボタンを考案したジャスチン・ローゼンシュタインも、同じ考えだ。
フェースブックの前の副社長であるチャマス・パリハピチヤは、SNSのフィードバックを大変嫌い、あれが社会に悪影響を与えると言う。
インターネット上にはヘイト、非協力、誤報、意図的情報の歪曲が乱舞していて、世界的に深刻な問題になっている。

シリコンバレーのエリートエンジニアでも、子供にはあまりスマホを使わせないようにしている。アップルのスティーブ・ジョッブズは、食事の時間に子供たちにはスマホを禁止させ、本とか歴史とかを話させるようにしていると言う。
未来のトレンド雑誌”ウァイアード”の元編集者クリス・アンダーソンは、「最新のインターネット技術は子供教育に有害」と言う。彼の5人の子供たちは親のスマホ嫌いに不平を言っている。

パリハピチヤは、「こんなくだらないもの使わないし、もちろん子供たちにも使わせない」 と強い言葉で言う。他のハイテク会社の役員や技術者も、子供たちには15歳になるまでスマホを買わせていない。敢えて子供たちをアイホン、アイパッド、ラップトップコンピューターを禁止する学校に通わせている。



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