直観

2022年4月5日


彼の天才物理学者アインシュタインが天才の秘密は何かと聞かれて、「直観とか閃きが大事です。これが正しいと認識するわけです」と1929年にサタデー・イブニング・ポストに答えている。
直観の大事さを言う人は物理学者だけではなく、フランスの有名なデザイナーであるココ・シャネルも「ファッションデザインは風が運んでくる」と言っている。

貴方も同じ経験をしていると思う。新しいアパートを探したり、職を探している時、人の印象が悪い場合、言葉に言い現わせない何かを感じるであろう。これが直観で過去20年間、心理学者、脳科学者が研究をしている。

虫の知らせ

直観に対する科学的検証は ”アイオワのバクチ課題”に始まる。
アイオワのバクチ課題とは、一種の心理テストで参加者はコンピューターのモニターの前に座り画面に現れた4組のカードを見る。その内の一枚をめくると現金を支給されるが同時に現金の支払いも命じられる。4組の内の2組は現金支給も大きいが支払い額も大きい。他の2組のカードは現金支給は少ないが、罰としての支払いも少ないから比較的安全な賭けだ。

参加者はどの組のカードが現金支給が大きくて支払いが少ないかは知らされてない。しかし40回もやると次第に賞金が多いカードが感覚的にわかるようになる。即ち直観でカードの傾向を感じ始めている。大事なのは参加者の直観が体の生理現象として現れることだ。即ち危険なカードに近づくと、心拍が上がり皮膚に発汗作用が起きる。これが危険を知らせる警笛として働き、直観の背景になっている。

実生活で直観が働かないとどうなるだろうか。多分選択に時間がかかるであろうし、どちらが良いかの分析地獄に入ってしまうかも知れない。その結果リスクに気づかず詐欺に引っかかってしまうこともあろう。直観とは、我々の生活に欠かせない意思決定の重要な道具であるのが分かる。

経験が物を言う

直観はまた我々の経験の量で決まる。無意識もまた過去の記憶を調べているからである。
ライス大学のエリック・デインが2012年に次の実験をした。学生に偽物と本物が入り混じるデザイナーハンドバッグを見せて、真偽の鑑定をしてもらう。半分の学生には丁寧に分析するように言い、残りの半分の学生には直観で決めてもらう。テストでは本物探しは繰り返し行われ、分析的アプローチの学生はほとんど上達しなかったのに対して、直観派は次第に向上した。実際専門家でも、直観を重要視する人たちは分析に頼る人より20%正確という数字が出ている。

ジョージア州立大学のビノッド・ビンセントは、”新人採用係課題”と題するテストをして同じ結果を出した。
参加者には、ヘルスケアー要員に応募する人から好ましい人を選択をさせる。応募者が書いた質問回答用紙を読んで直観だけで判定するグループと、分析を加えるグループに分けてテストをした。

学部学生は経験がないから分析を加えるが、採用職を何べんも経験した人では、細かい情報を調べることなしに直観だけで好成績を残した。「経験が物を言っているのです」とビンセントは言う。しかしビンセントは分析的思考も時に必要だと言う。何故なら直観は人種、年齢、男女等の先入観に影響されやすいからだ。

考えすぎるな

直観的判断は特に膨大な情報を処理する時に有利に働く。意識的情報処理では頭がいっぱいになり時に混乱する。こんな場合は一先ず決定を先延ばしにして、何か別な事を始める。その間に無意識に脳が情報を整理してくれるからだ。

アパート探しの実験と言うのがある。参加者にアパートを決める前に詳細な情報を与えてアパートを探してもらう。半分の人には決定一歩手前に更に違った選択肢を与えるのに対して、残りの半分の人は決定前にゲームをして分析思考を妨害した。
驚いたことにアパート探しに入念な準備をしたグループはそうでないグループに比べて見劣りする物件を選んだ。過度の分析が判断を鈍らせたのだろう。

直観は便利ではあるが、決定には時間をかけた方が良いと言う研究もある。
エックス・マルセイユ大学のマレーネ・アバディーは、直ぐ決めるのではなく、しばらく時間を置くと無意識が錯綜する情報を整理していてくれると言う。

例えばスマホ、パソコン、テレビ、冷蔵庫等を買おうとして決断を決めかねている時には、ちょっとコーヒースタンドに行ってコーヒーを飲む、あるいは本屋で本をぱらぱらとめくってみる等が意外と心を整理してくれる。

感情知性力

最近の研究によると、直観の質は感情知性力によるという。感情知性力を強化することにより、直観判断を向上させる事が出来るらしい。研究では人の感情知性力を測定するのに、他人が示した顔の表情の変化を読み取れるかどうかを見る。
ジョージタウン大学のジェレミー・イップは、感情知性がアイオワのバクチ課題にどう影響するか調査した。参加者が危険なカードに近づくと、体のストレス反応を引き起こすが、感情知性が低い人ではこの反応に気が付かないか読み違えていた。例えば、感情知性の低い人は、ストレス反応をむしろ更に儲けろのシグナルと取っていたとイップは言う。

アリゾナ大学のアナ・アーコザイは最近直観力を訓練するコースをオンラインで開設した。
一週間に2回、計3週間訓練を受けるが、このコースの受講者がアイオワのバクチ課題をすると、受けなかった人に比べて上達していた。

もし貴方が直観を向上させたいと思うなら、自分の感情を素直に見つめ、何を感じているか、その原因は何かを考えてみたら良い。直観は決して完全なものではないが、上手に使えば生活は向上する。


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