RNA元年

2013年11月18日
Geoffrey Carr: science editor
The Economist誌 Science and Technologyから


2014年は、RNAにとって20年前のヒトゲノム全読み取りで大騒ぎした年と同じになるのではないか。あれほど持てはやされた全ヒトゲノム読み取りは、期待された結果が出ず失望に変わった。その原因は、専門家がRNAを単にDNAやタンパク質の下働き程度に考えていたためであった。今や専門家はRNAの重要性に気付き、来年はRNAの研究が加速することが予想される。

RNAの構造はDNAに近く、細胞核内でDNAを鋳型に作られる。mRNAはリボゾームと呼ばれる細胞内タンパク製造工場に情報を持ち込み、tRNAはアミノ酸をリボゾームに運び込み、rRNAはリボゾームを構成する一部になっている。

しかし、近年RNAはこの3種だけではなく、aRNA, lincRNA, miRNA, piRNA, siRNA , snRNAと多数発見され、今後も数は増えるであろう。あまりに多すぎて全体のRNAが何をしているのか分からなくなってきたが、確かなのは、タンパクをコードするわずか2%のDNAが遺伝子であるとする考えが消え去ったことである。

2012年に”ENCODE”と呼ばれる私的ゲノムプロジェクトが、少なくてもDNAの4分の3はRNAにコピーされている可能性があると報告している。更に2013年9月の報告では、全ヒトゲノムの16万ヶ所でコピーされているらしいと報告している。すると遺伝子の数は16万となり、発見されていない14万の遺伝子は何処に行ったのだろう。この14万の遺伝子では、RNA自体が最終生産物になるので同定するのは容易ではない。

一気に増えた14万の遺伝子の役割は、mRNAに取り付いてそれを不活性にする”RNA干渉”や、一定のDNAに結びつく作用、DNAを包むタンパクを変性させて情報を読めなくする、また転写因子と呼ばれるタンパクを取り込んで、遺伝子の転写を妨害すると言うように多岐に渡っている。次第にRNAは細胞の活動そのものをコントロールして、細胞が何に成長するかを決定しているらしいことが分かって来た。

魔法と医療
ジャンク遺伝子と呼ばれるDNAの98%部分は癌、心臓病、糖尿病からアルツハイマー、自閉症、統合失調症等の神経障害まで関わっているらしい。これらの病気の多くが単にタンパクをコードする遺伝子の変異で起きているのではないから、今まで専門家は間違った場所を探していたのだ。

製薬会社もこの新しい遺伝子分野に強い興味を示している。RNA関連の新薬開発はそう簡単でないが、思わぬ進歩が飛び出るかも知れない。RNAのもう一つの大きな期待は、生命の起源に迫れる可能性だ。リボゾームのコア部分はアミノ酸をつなげる役割をしているのをイスラエル・ワイズマン研究所のアダ・ヨナス氏が発見している。彼は、このコアが地球上の生物すべてに共通している事実に注目して、ここから生命の起源に迫れるかも知れないと言う。

実際、リボゾームのコアは、生きている最も古い化石であり、地球上の動植物、カビ、バクテリアが毎日生産している。もし誰かがリボゾームのコア即ちRNAの断片の起源を解き明かしたら、生命の起源が分かるかも知れない。2014年はいよいよ面白い年になりそうだ。



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