鬱状態を示すマウスにケタミンで治療を試み、神経細胞の変化を高精度画像で捉える研究発表があった。この研究は、アメリカ国立精神衛生研究所に助成されている。
「ケタミンは、鬱治療に変革を起こす可能性があるが、現在の所、効果の維持に問題がある」とウェイル・コーネル・メディスンのコーナー・リストンは言う。
研究では、マウスの前頭前野皮質にある神経細胞の樹状突起スパイン(神経細胞の樹状突起から突き出ている小区画)の精密な画像を取り、マウスが鬱状態になる前と後で比較した。樹状突起スパインは、他の神経細胞と連結して情報を入力する重要な役割をする。
実験の結果、マウスが鬱状態を経験すると、神経細胞の樹状突起スパインが少なくなるのが分かった。この報告は以前にもあったが、今回再度確認された。また鬱状態を経験したマウスでは、前頭前野皮質の神経細胞同士の連絡が低下していた。この神経細胞間の連絡機能の低下が、鬱の発生に関連しているのだろうとしている。
ケタミンを与えると、マウスの脳細胞間の交信が改善し、鬱状態を示す行動が緩解した。
しかし、ケタミン治療を受けたマウスは24時間後、鬱状態を示す行動を再度示し始めた。樹状突起スパインの数は、ケタミン治療を受けないマウスに比べて増えている。新しく出来た樹状突起スパインは、他の神経細胞と回路を形成した。
ケタミンを処方すると、鬱状態のマウスの動作が3時間内に変化するが、樹状突起スパインの形成は遅く、12時間から24時間後になった。
樹状突起スパインの形成は、ケタミンが前頭前野皮質の神経回路を回復させた結果ではないかと推測される。
樹状突起スパイン形成とケタミン効果の現れの関係は分からなかったが、鬱状態緩解を維持する役割をしているのではないかと言う。
東京大学のカサイとビトー等の報告によると、新しく形成された樹状突起スパインを取り除くと、鬱状態に戻ったと言う。
「ケタミン効果を存続させるには、シナプスの回復とそれの維持だろう」とリストンは言う。
「ケタミンはプロザック発売以来、始めての新しいタイプの抗鬱剤として期待されている。効果が出るのが早いが、抗鬱効果の維持が難しい。この解決が今後の目標である」とアメリカ国立精神衛生研究所のジャナイン・シモンズは言う。
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