ケタミンには常習性はない

2022年8月4日
ジュネーブ大学

ケタミンは1962年、アメリカの化学者であるカルビン・リー・スティーブンソンによりフェンサイクリジンから合成された薬物で、強力な麻酔効果がある。今では人間にも動物にも痛み止め、鎮静剤として使われているが、同時に巷ではパーティードラッグとしても使われている。
 最近、ケタミンには治療困難な鬱にも効果があることが分かり注目され始めた。特に効果が早く現れるのでケタミンに救いを求める人が増えて来たが依存性への疑いが消えていない。

「ケタミンは長く使うと依存性が現れるという人もいるし、現れないという人もいる。我々の研究はこの疑問に答える事です」とジュネーブ大学のクリスチャン・ルーシャーは言う。

耽溺性と依存性の違い
耽溺性とは体に良くないと分かっていても止められない心の状態を指すのに対して、依存性とは薬物を止めた時に離脱症状がでる状態を言う。依存性は大なり小なりどの薬物にも起きるが、耽溺性は限られた人にだけ起きてすべての薬物に起きるわけではない。
コカインでは飲む人の20%に耽溺性が現れて現れには時間がかかる。それに対してアヘンでは30%の人が耽溺状態になる。ルーシャーの研究チームはこの性質があるかどうかをケタミンについて調べた。

報酬回路の急激な刺激
研究ではマウスを使って動物自身がケタミンを接種できる環境に置いた。「ケタミンは脳の報酬回路を強く刺激して、ドーパミンのレベルを上昇させます。最初のステップはこれが働くかどうかを観察します」とジュネーブ大学のユエ・リーは言う。

マウスが自分でケタミンを接種すると明かにドーパミンが上昇し、これがマウスのケタミン再接種につながった。「しかしコカインと違ってケタミンでは接種した直後にドーパミンのレベルは下がる」とユエ・リーは言う。

効果を残さない
何故この現象が起きるのか。ケタミンはドーパミンのレベルを上げるが、同時にマウスの報酬回路にあるNMDA受容体を抑制する。抑制されたNMDA受容体は上昇したドーパミンを下げる。これが耽溺性を抑止する役割をしていた。

「この作用が耽溺症を引き起こすドラッグと違う所で、危険なドラッグではシナプスの働きを変化させ薬物効果が消えても作用は残ってしまう。それが繰り返し接種につながる」とクリスチャン・ルーシャーは説明する。

実験ではケタミンに常習性はなかったが、果たして人間にも言えるか、その点については今後も検討を続けてもらいたいとルーシャーは言う。



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