光でねずみの不安を取り去る

2011年4月18日
NIMH(アメリカ国立精神衛生研究所)サイエンスニュース
神経細胞
扁桃体の神経細胞の全体を活性化すると不安が高まったのに対して、神経細胞の突起の一つだけを活性化すると不安が消失したのは驚きであると研究者は言う。
実験中のねずみの動き
(ビデオスタンフォード大学チー教授提供)
ねずみは普通高い場所や開けた場所を怖がるから、この迷路では比較的高い壁に囲まれた迷路の端の部分に隠れている。しかし光ファイバーケーブルを経由して青色レーザー光線を照射すると(青い文字が現れたとき)、突如勇気を発揮して開けた部分に出て行く。ビデオでは15分のビデオを10倍のスピードに上げている。
(ビデオを見るにはクリックしてダウンロードします。ファイルは保存でなく開くにしますとビデオが開始します)

ねずみに光を当てて臆病なねずみを勇気あるねずみに変えることに成功した。普通ねずみは本能的に安全な場所に隠れようとするが、実験で青のレーザー光線を当てると、開けた場所を探索するようになり、レーザー光を消すと元の隠れ場所に戻った。対照的に黄色のレーザー光を浴びせるとねずみの不安が増した。
アメリカ国立精神衛生研究所が一部支援して行われたこの研究では、ウイルス、遺伝子工学、光ファイバー光学を駆使して、ねずみの不安回路の直接制御を試みている。

「今回の試験では、対抗する2つの回路が不安を制御しているのが分かった。将来、不安症の治療に結びつくのを期待している」とスタンフォード大学の神経科学者であるカール・ディーゼロス氏は言う。ディーゼロス及びカイ・M・チー氏等は2011年3月17日にこの成果を”ネイチャー”誌に発表した。

光遺伝学
神経症、不安症の存在は広く知られていて、アメリカでも国民の1%が罹患していると言われている。この心の病気の原因を究明するために、現在ねずみの脳の不安中枢である扁桃体に焦点を当てて研究が行われている。
ディーゼロス等は光遺伝学と呼ばれる新しい分野の技術を使って、不安回路の解明に取り組んだ。実験では、光に反応する微生物から採取した特殊な蛋白質の遺伝子をねずみの脳に組み込んで、その脳がどう反応するか調べた。

ディーゼロス等は、以前は特定の神経細胞全体を活性化して調べたが、今回は神経細胞の一つの突起物だけを刺激してその様子を調べた。(上の写真参照)

ディーゼロス等は、ある種の藻に存在する光に反応する蛋白質に注目し、その蛋白質をコードする遺伝子を取り出して、それをウイルスを使ってねずみの扁桃体の回路の中に移植した。この蛋白質は藻の中では青色の光に反応して、青色の光の方向に泳ぐよう指令する性質を持つ。従って遺伝子を移植されたねずみでは、青色の光を当てられると扁桃体の回路が活性化する。回路の活動の抑制には、やはりある種の細菌から蛋白質の遺伝子コードをねずみに移植し、黄色の光で回路の活動を抑制した。

ねずみは、その扁桃体神経細胞の全体を活性化すると、不安を増して隅からあまり動かなかったが、神経細胞の中のある突起(上の写真参照)だけを青のレーザー光で刺激すると、突如勇気を発揮して開けている迷路に頻繁に歩を進めた。(ビデオ参照)

「期待していた反対の結果が出て驚いている。不安に慄くのではなく危険に敢えて向っていく行動を見て最初の研究目的を忘れてしまったほどだ」とチーは言う。
研究では、黄色のレーザー光で神経細胞の一つの突起の活動を抑制すると、ねずみの不安が増すのが分かった。以上から、我々の扁桃体のある回路を調節することにより、一瞬の内に不安が強くなったり消失したりする可能性が出てきた。

将来の展望
ディーゼロス等は、更に光の照射を数時間あるいは数日試みて、果たして長期の効果が期待できるかどうかを調べる。
将来的には脳の特定の回路を刺激して、不安を瞬間に抑える治療が可能になるかもしれない。その場合、もちろん現在使われている抗不安剤、抗鬱剤による副作用もなくなるであろう。慢性で強度の不安を抱える患者にとっては朗報になる。
「実験では神経細胞のごく特定部分だけを操作しているので、脳の他の部分には全く影響を与えません」とチーは言う。


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