光で神経細胞をオン、オフ

2007年 4月5日

光に反応する藻と細菌から取り出した遺伝子を細胞に埋め込んで、青と黄の光で脳神経細胞の活動を開始、停止させる事に成功した。ミリセカンドの一瞬の動作であり、この手法を使うと脳の神経回路の微妙な動きを正確に捉えることができる。テストは生きているネズミと小さなミミズで行われたが、心と神経の病気の理解と治療に役立つと期待されている。

「将来は体内埋め込み型光照射装置で心と神経の病気が治療できるかも知れません。種々の心の病気を起す神経細胞は複雑な回路にまたがって存在します。」とスタンフォード大学のカール・デーザロス氏は言う。彼は精神科医であると同時に工学博士で、鬱病の治療にあたっている。彼の研究は2007年4月5日号の Nature誌に記載された。

殆どの脳神経回路の動きは瞬時に行われ、しかも微細な領域であるから最新のイメージ技術でも捉えることが出来ない。脳科学の進歩には正確で反復実験できる技術が必要だ。

この問題を解決するために、デーザロス氏の研究チームはある特殊の神経細胞に的を絞った。活性を弱めたウイルスに光に反応する原始的生物の遺伝子を注入し、ウイルスにその遺伝子をある神経細胞に運ばせ、そこに遺伝子を移す。遺伝子を移された神経細胞はある蛋白質を生産し、藻や細菌の中で行っていたように、神経細胞の活動を開始させたり停止させたりした。

神経細胞の活動をオンにするために、緑藻からChR2と言う遺伝子を取り出してこれを細胞に入れた。この遺伝子は青の光に反応して藻の単細胞のナトリウムゲートを開く働きをするが、藻では光合成をするために光に反応して動く必要があり、それと関連している。

神経細胞をオフにする為には、エジプトの塩湖に住む原始的細菌からNpHRと言う遺伝子を改良して作り上げた。この遺伝子は黄の光に反応して塩素イオンを細胞に送り込んで塩分のバランスを保つ役割をする。この遺伝子は塩湖に住む細菌のナトリウムと塩素イオンのバランスを取る役割をしている。

実験では、ChR2と NpHRの両遺伝子を組み込まれた培養ネズミ細胞が、青い光をあてると信号を発して、黄色の光をあてると信号を停止した。遺伝子を組み込まれた生きたネズミにも光をあてて同じオンとオフの反応を確認している。小さな半透明のミミズも試みて、その運動をコントロールする神経細胞がオンとオフになり、泳ぎを停止したり開始した。

この実験技法は、生きている動物にも用いてその行動と神経細胞の活動の関係を正確に調べることができる。また試験段階の薬に使って治療効果推定に役立ちそうだ。

更に遠い将来になるかも知れないが、病気に関わる神経細胞の遺伝子追跡に使えそうだ。今はパーキンソン病や鬱病の治癒に電気刺激療法が試みられる事があるが、光刺激療法が可能ならより正確で患者に負担にならないであろう。

「この研究は、ミリセカンドの極く短時間で行われる神経回路活動を調べる上で大変重要な役割をするでしょうし、種々の病気の原因解明に役立つと思う」とアメリカ国立衛生研究所の所長であるエリアス・ゼローニ氏は言う。



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