恐怖は危険を避けるための重要なシグナルであり、それなくして動物は生存できないが、恐怖の度が過ぎると健康生活に支障が生じる。ヨーロッパでは人口の15%は不安症であると言われていて、治療が求められているが、今の所これと言う治療がない。その原因は、恐怖の暴走を起こす脳神経細胞のメカニズムが解明されていないからである。
最近分かり始めたのは、扁桃体中央にある神経細胞群が綱引きを演じて、恐怖の種類により回路を作ることだ。この回路構築が上手く行かないと恐怖が暴走して不安症の発生につながる。
今回の研究で、扁桃体の細胞群が恐怖の抑制に重要な役割をしている事が分かった。扁桃体とは脳の中心にあるアーモンド形をした脳で、恐怖のシグナルを受けてそれを他の脳に送り出していて、恐怖反応のハブとして知られている。
スイス・ベルン大学のシオッチーとフリードリッヒ・メッシャー研究所のルーチは、扁桃体が恐怖の抑制にも重要な役割をしているのを発見した。動物を使った実験で、この細胞群の活動をそのままにすると動物の恐怖は抑制され、細胞群の活動を停止すると動物の恐怖が戻って来た。この結果がNature Communications誌に掲載された。
研究では光遺伝学と呼ばれる実験手法で、動物の神経細胞の活動を調節する。「当該の細胞群に光を当てると細胞群の活動が停止して、恐怖が戻って来た」とベルン大学のシオッチーは言う。
神経細胞の多様性こそが脳皮質細胞の特徴で、扁桃体では細胞群が選択的にシナプス結合をして回路を構成する。不安症、PTSDの人ではここに問題が生じて、恐怖の抑制が出来なくなっているのだろう。「実験結果が果たして人間にも当てはまるかどうか、更なる研究が必要です」とシオッチーは言う。
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