LSD少量摂取

2022年3月4日



オースティンでデザイナーの仕事をしているジョゼフは、LSDの少量摂取を5年前に開始した。
「不安状態が泥沼化してどうにもならなくなっていたのです」と言う。不安と鬱はジョゼフ一家の問題でもあり、彼も子供のころからプロザックを処方されていた。しかし彼が30代に入る頃ひどい鬱が戻って来て、彼はプロザックも考えたが今回は何か違う方法はないかと探し始めた。

そんな折、ジョーンズ・ホプキンス大学が幻覚キノコの成分を使って鬱の治療を試みているのを知った。この治療は今までに癌を患う患者に十分量投与すると不安と鬱の解消に効果があることは分かっていた。

一方シリコンバレーに住むあるインフルエンサーが、幻覚キノコを少量ずつ摂取して心がよみがえったと言うので、さっそく彼も幻覚キノコの少量摂取を試みた。キノコを1cmほどに切り、一週間に数回食べたところ、変化は直ぐ現れ「何かやる気が出て来て興奮さえ感じる」と言う。

少量接種とは普通量の5%から10%で、LSDあるいはシロシビンが及ぼす幻覚作用を抑えながら不安、鬱の解消が期待できる。一般にクリニックで処方する場合は70kgの体重の男性に20mgであるのに対して、少量接種では1mgとか2mgになる。

シアトルでバーテンダーをしているエリン・ロイヤルは
「言ってみれば外に出て太陽を浴びるみたいなものです。人間性回復と言うか、物事が明るく見え始めた」と言う。

彼女は幻覚キノコを近くの森に採集に行き、週、数回少量摂取する。少量摂取と言っても普通は少し効いてくるまで食べるから正確な分量ではない。効果は1時間後から現れ、4時間から6時間は続く。キノコに含まれる幻覚成分は種類によって濃度が違うから、分量の加減は難しい。よく聞く失敗例として、間違って量を多く取りすぎて、会社で他の社員に気付かれてしまうことである。

今までの専門家による試験で、十分量のシロシビンはSSRIと呼ばれる抗鬱剤と同じ位の抗鬱効果を示すと言う。

専門家も少量接種の効果を研究し始めたが、今の所、試験の規模が小さく偽薬を使った盲検テストもしていないので専門家の意見は分かれている。一般から寄せられる意見も逸話の域を出ない。

「人は効くに違いないと思えば効果も出てくる」とロンドンの王立カレッジのデイビッド・エリゾーは言う。去年行われた二回の盲検テストでは、 偽薬もシロシビンも大差がなかった。被験者に本物と偽薬を飲ませたが、数週間後に全員の気分が向上していた。
「気分向上が全員に現れたと言うのは効果が偽薬程度だったという事です」とオランダ、ライデン大学のマイケル・バン・エルクは言う。

別の試験をしたエリゾーも、「少量接種の効果は偽薬効果でしょう。本物と思えば効果があるし、そうでないと思えば効果はない」と言う。

今月行われたシカゴ大学の盲検テストでは、被験者の期待を避けるために2週間に4回の少量接種をした。試験の目的も伝えないし、与えた薬物の種類も言わないが、LSD少量接種と偽薬の違いはなかった。

それでも専門家の中には少量接種にも脳の変化が認められたと主張する人がいる。デンマークで行われた試験では、少量接種でセロトニン受容体の約半数が活性化したと報告している。

「少量接種でも普通量と同じような脳の変化が見られる」とシカゴ大学のハリエット・ウィットは言う。
ウィットとかエルクは、今まですっきりした結果が出なかったのは試験の仕方に問題があったか、テスト期間が短か過ぎたか、被験者への質問項目が適切でなかったからではないかと言う。

一方エリゾー等は、脳に変化が見られるから効果があるのではないと言う。「脳に変化があっても、症状改善がなかったらそれは意味がない。少量接種を否定している分けではないが、現状では受け入れられない」と彼は述べる。

最大の問題は幻覚物質を扱う場合、偽薬効果を取り除くのは難しいことだ。エリゾーの試験でも、被験者の72%が自分が飲むものが分かっていた。脳に変化が認められたと言う試験では、接種したLSDが少量でもかなり多めの少量であった。20から26マイクログラムのLSDあるいは3mgのシロシビンにあたり、これだと大抵の人が幻覚状態を感じ始める。

自分で接種する場合は期待が先行するから、少量と言っても普通量の半分程度になるだろう。このような困難からエルクは少量接種の研究を止めて普通量あるいは多めの量の研究を始めた。

一方患者であるジョゼフとロイヤルは、偽薬効果を重々知っているが、彼らにとっては救われたかどうかが問題なのだ。ジョゼフは最近はむしろ瞑想でよくなったと言っている。
「大きく違ったのは心の持ち方と言うか、どう生きたいとか、自分とは何かという事です」と彼は言う。しかし、こうなると科学では追えない。



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