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小脳のない女性

2014年12月18日
BBC
By Tom Stafford

 
時々脳のかなりの部分が欠損しているのに、大きな不都合なく生きている人を発見する。何故このような事が可能なのか。

我々が健康を維持するには脳全体の何%が必要であろうか。
今年の初め、ある小脳がない24歳の女性がニュースで紹介された。小脳と言えば脳の後部にある運動中枢で、脳全体の半分の神経細胞があると言う重要な脳だ。脊椎動物には必ずあり、恐竜が闊歩していた大昔のサメに既に存在している。この女性は普通に生活をしていて、子供をもうけている。しかし、彼女には、生まれたときから動作のぎこちなさがあった。

何故このような事が可能なのか。実は我々は未だ脳の基本を理解していないための驚きだろう。小脳そのものも良く分かっていないし、脳の個人差が大きいにも関わらず、それが外見的に大きな違いを示さない理由も分からない。

我々は無意識に脳を自然が生んだ技術と見る傾向がある。一般の技術は、構造と機能は1対1で対応しているが、脳はそのようには設計されてはいない。脳のどの部分が視野領域であり、空腹を感じる領域であり、愛を感じる領域であると説明したいが、それは出来ない。

最近起きた特異なもう一つの事例では、あるカリフォルニアの男性が長年けいれん、記憶喪失、異臭の症状に悩まされ、病院を訪れた所、彼の脳からサナダムシが発見された。サナダムシは彼の脳の中に4年間も住み、しかも移動したため、様々の症状に悩まされていたのだ。もし一般の器機に同じ事が起きていたら、とっくに動かなくなっていただろう。実際1940年代の初期のコンピューターが動かなくなったのは、蛾がリレーに挟まったためだった。

脳のこの驚異的能力はその柔軟性にある。柔軟性とは、脳が事態をおのずから判断して、故障を回避する機能だ。ノーベル賞受賞の神経科学者であるジェラルド・エーデルマンは、これを”縮重”と言う言葉で説明する。

彼は、生物の機能の多くは1対1対応でなく、1つの機能を沢山の部位が支えていると説明する。体のある部分を作る遺伝子は一つでなく、沢山の遺伝子が関わっている。だから、一つの遺伝子が欠損しても、他の遺伝子が支えて問題なく成長する。小脳が微細な動きをコントロールしているのは誰でも知っているが、大脳基底核や運動皮質も体の動きに参加しているのである。丁度それはインターネット情報通信のように、コンピューターが情報を小さなパケットに分割してマルチチャンネルで伝達する様子に似ている。脳では、一つの機能を沢山の脳が支えるため、小脳がそっくりない女性も生存が可能になった。

記憶も同じで、記憶の作成には脳の各部が参加している。例えば、昔会ったことがある人にばったり出くわしたとする。その場合、先ずその人の人物像や、ある特定の出来事を思い出そうとする。あるいはぼんやりとして思い出せないかもしれないが、これ等、断片的記憶は脳の別別の場所に格納されている。エーデルマンは”縮重”を生物の特性と説明するが、恐らく進化の段階で必然的に獲得してきたのだろう。



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