不安の病理


2007年6月4日

神経症の人は、曖昧な不安状況を脅威、恐怖と取って過剰不安反応をする。イタリアにあるヨーロッパ分子生物学研究所のネズミ生物学研究質が、今回ネズミを使って神経症的不安の説明に成功した。Nature Neuroscience誌に発表された研究報告によると、神経伝達物質であるセロトニンの受容体と、海馬にある神経回路が曖昧な状況での不安反応に関わっているのが分った。

ネズミにある音を聞かせて次に電気ショックを与える刺激を繰り返すと、ネズミは音を聞いただけで身構えて恐怖反応を示すようになる。しかし実際の生活ではこのような単純な組み合わせは無いから、刺激があっても脅威は必ずしも迫らない。普通のネズミはこのようは曖昧な刺激に対しては、過剰な反応はしない。

ヨーロッパ分子生物学研究所のネズミ生物学研究質は、曖昧な刺激に対して過剰反応をしないためには、ある特別のセロトニン受容体が必要な事を突き止めた。セロトニン受容体1Aと呼ばれるもので、これを持たないねずみは曖昧な不安の処理が適切に行われず、過剰不安反応を起こす。理由はネズミの脳の神経細胞が適切に連結していないためである。

脳が発達する過程ではセロトニンは重要な役割をし、もしセロトニン受容体1Aが無いと脳の回路に問題が生じて、成長した後にネズミの行動に影響を与えるようになる。

「人間ではセロトニンの情報伝達不全が鬱病、神経症の原因ではないかと考えられていますが、ネズミでも同じ原因で不安の過剰反応が起きてしまうのです。次のステップは、この不安処理のまずさと不安行動がどの脳の特定部位と関連しているかを発見することです」とグロス氏は言う。

最新の技術では、生きているネズミの脳の特定部分の神経細胞活動をオフにする事ができる。その技術を使ってグロス氏らの研究チームは、海馬の特定領域がこの曖昧不安の処理に欠かせない役割をしているのを発見した。

「海馬にある特定の神経回路を閉鎖する事により、曖昧な刺激に対する不安反応を停止させる事に成功しました。この回路は不安の判定と処理に関わっているのでしょう。この回路が曖昧刺激を脅威と取る役割をしていたのです」とテオドロス・セトセニス氏(グロス研究室での共同研究者)は言う。

海馬は今まで学習と記憶に重要な役割をする脳の部位として知られたいたが、情報とか不測の事態の判断に関わる総合的役割をしているのが分った。

恐怖に反応する脳の回路は種を越えて多くの動物に共有されていて、人間でも不安反応に海馬が重要な役割をしている。

曖昧な不安にはセロトニン受容体1Aと海馬が関連しているのが分り、今後この方面から神経症病理の解明と、新しい治療法の可能性が出て来た。



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