新脳地図完成

2016年7月20日
脳は、しわや膨らみを持つ捉え所のない構造をしているが、実は機能別に細かく分かれていて、顔を認識する脳、本を読む脳、あるいは手をあげる時の動作の脳等に分かれている。今週の水曜日に、新たに100の分野が加わった新脳地図が発表された。

今後この地図を元に、子供の脳の発達や老化の問題、アルツハイマー病や統合失調症の問題と、広く脳の研究が進むことになる。「新しい脳地図は、自分が何故自分であるかの説明への第一歩になる」とカリフォルニア大学の神経科学者のデイビッド・クラインフェルドは言う。

研究には最新のスキャナーと、ディープ・ラーニングと呼ばれる自己学習するソフトウェアーが使われた。このソフトは、数百の脳から得られた膨大な情報を読み、隠れた脳の領域を探し出すことが出来る。脳の殆どは未知であるから、発見された新しい領域の役割を知るには更に数十年かかるであろう。しかも未だ増える可能性もある。「今回の発表の脳地図はバージョン1.0とも言うべきもので、データーが更に集まればバージョン2.0も登場する」とワシントン医科大学のマシュー・グラッサーは言う。

脳地図の概念は150年前に遡る。1860年代にピエール・ブロッカと言う医者が、会話に障害のある二人の患者に注目し、二人が死んだ後、その脳を調べた。すると、両者の脳皮質には同じ部分に障害があるのを発見した。この部分をブロッカ領域と我々は今呼ぶが、会話する時に活性化するのが証明されている。

1800年代の後半に、ドイツの科学者がブロッカ領域以外にも領域を発見している。1907年には、コルビニアン・ブロッドマンが、52の脳の領域を発表した。彼の手書きの脳地図と、その後発見された幾つかの領域を足して、今の世界のスタンダードになっている。

グラッサーは今から3年前に、ヒューマン・コネクトーム・プロジェクトから得られた最新のデーターを元に、新しい脳地図を作製することにした。地図はヒューマン・コネクトーム・プロジェクトで得られた最新の高解像スキャナー画像と、被験者1,200人に対する記憶、会話、思考テストから得られた情報で作成する。高解像スキャナーは、構造的違い、即ちミエリンと呼ばれる脳細胞絶縁物質の量の違いも観察出来る。これにより、ミエリンの量が領域毎に大きく違うのを発見した。今までの脳地図作製では、神経細胞の配列だけしか見られなかった。

「我々は112の変数をコンピューターに入力して分析した」とヒューマン・コネクトームプロジェクトのチーフであるデイビッド・バン・エッセンは言う。コンピューターに210の脳を学習させ、これに変数を当てはめ、領域をコンピューターに探らせた。一度コンピューターが、ミエリン、脳細胞の活動、その他の特徴から領域の輪郭を発見すると、コンピューター自身がそれを他の脳に応用し、96.6%の確率で他の脳に該当領域を見つけた。数種類の特徴を入力するだけで領域を発見出来ることから、僅か1時間で領域を探せるようになった。

最新の脳地図には、今まで知られていた83の領域と、新しく加えられた97の領域がある。この中には一度発見されたが、その後忘れられたものもある。1950年代に、ドイツの科学者が側頭葉にミエリンが少ない領域を発見していたが、間もなく注目されなくなった。この領域が今回再び発見されたわけで、エッセンは55bと名付けた。この部分は物語を聞くと活動するので、ブロッカ領域と並んで言語の中枢とされる。

また、今までの領域が幾つかに細分される場合もある。例えば、背外側前頭前皮質は10個以上の小さな領域に分けられた。ここは思考に関係しているから、思考もその種類によって、この細分化された領域が担当していると考えられる。
使われたコンピューターソフトは大変優秀で、領域が変形していても見つけ出す。1,200人中12人に、2つに分かれた55bを発見したが、未だこの意味が分からない。

「この新しい地図が、我々にどれ程パワーを与えてくれるかが楽しみだ」とイェール大学院生であるエミリー・フィンは言う。彼はヒューマン・コネクトーム・プロジェクトから得られたデーターから、脳の活動状態と知能の関係を調べている。
新しい地図が正確であるかどうかは、今後の研究の進歩で明らかにされる。例えば、各々の領域の神経細胞は、同じ遺伝子表現を共有しているはずだから、それを調べれば確かめられると、クラインフェルドは言う。

次第に脳とは、一つの目的のために共同作業をしている、沢山の領域からなる集合体に見えて来た。
バン・エッセンは新しい脳地図を使ってアルツハイマー病を研究する予定だ。
「今直ぐ奇跡が起きるとも、統合失調症の解明が出来るとも期待してはいけない。だが研究に加速がついたのは間違いない」とエッセンは言う。



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