新しい摂食障害

2020年1月2日


メラニー・マーフィーは最初は医師の薦めで体重減少に努めた。
当時19歳のマーフィーは鬱状態を患っていて、そのために体重が増加した。しかし、体重が85sから60sに落ちても未だ努力が足りないと感じた彼女は、体重以外に何か他の理由を探した。見つけたのは ”オーソレクシア” 完璧ダイエットと言うもので、清潔で将来長きに渡って彼女の健康を保証するはずであった。 ソーシアルメディアを読みふけったマーフィーは、果物と野菜だけのダイエットを開始した。

当時は正しい食事と考えていたが、最近は彼女は間違っていたという。
「あまりに食事に拘ったため、一日中食事ばかり考えていて、食事が怖くなってしまった。良い食事をすれば徳を得て、悪い食事をすると健康を損ねると感じるのです。 友達の悪い食事習慣を見ると、あんな人間になるのはごめんと感じた」と30歳になる、アイルランドでライフスタイルのビデオブログを発信するマーフィーは言う。

これほど厳格な食事をすると、時々猛烈にビフテキを食べたくなる。我慢ならなくなった彼女は過食に走った。
ここに至ってマーフィーも助けを求め、認知行動療法と直感的食事療法を開始した。お蔭で回復したと彼女は主張するが、それでも時々聞こえて来る”ささやき”には抗する事ができないようだ。でも、療法をやる事によって、悩むのが彼女だけでないのを知るだけでも良かったという。

診断の確立
オーソレクシアの存在に、やっと社会も気が付き始めたようだ。1990年代、スティーブン・ブラットマンがオーソレクシアの概念を発表して以来、存在は認められていたが、精神医学に正式に取り上げられる事はなかった。現在も主流に入れないのは、症状と診断で合意が得られていないためである。

ブラットマンは自己診断テストを開発し、他の研究者も追随するが、未だはっきりしてない。 彼は2015年にオーソレクシア診断基準の草案を発表した。そこではオーソレクシアとは、強い健康食事への執着とその結果、栄養失調、精神的苦悶、社会的に孤立を経験する精神症状とされている。ブラットマンによれば、オーソレクシアが拒食症と違うのは、オーソレクシアが清浄とか徳を考えるのに対して、拒食症では単に痩せることだけを考えていることであった。

各国の専門家も、オーソレクシアが”精神障害の診断と統計マニュアル”に記載されるよう努力をしている。
”精神障害の診断と統計マニュアル”を作るアメリカ精神医学協会は次の版には掲載するとしているが、編集メンバーの一人は、未だ具体化していないという。英国栄養学者であり、 診断と統計マニュアルの編集委員の一人であるレニー・マックグレガーは、2020年にはオーソレクシアについて態度をはっきりさせるとしている。

オーソレクシアに関しては、マックグレガーが次の特徴を付け加えた。
砂糖がダメと言えば絶対砂糖はダメになるように、栄養に関するアドバイスを絶対視する傾向があること。この傾向は運動選手や菜食主義者にも見られるが、完璧主義や強迫行為の患者にも近い症状でもある。何処からが正常で、何処からが異常であるの線引きが難しいとしている。

オーソレクシアは不安症に近いが、精神障害の一種であるとして独立した名前を与えるのに反対する専門家もいる。通常の健康思考と、行き過ぎた健康思考との間にはっきりした違いを見つけるのは難しいとマックグレガーは言う。
「問題は食べ物と言うより、不安の現れか、受け入れてもらえない不満の現れかも知れない」とマックグレガーは言う。

アメリカ国立精神衛生研究所の推定では、アメリカでは3%から4%の人が摂食障害で悩んでいる。オーソレクシアについては1%とも7%とも言われて、まだはっきりしない。

職業別のオーソレクシアの罹患率は栄養士で最も高く、2017年の調査では630名の栄養士の内の半数がオーソレクシア的傾向があると認めている。理由としては彼らの性向とか職業柄が疑われる。
イリノイで活躍する栄養士のアッシュレー・トーマスもその一人で、彼女は大学院生のころ、厳密な菜食主義からオーソレクシアになり、以来砂糖と炭水化物を避けた。彼女が自分がオーソレクシアと気づいたのは、数年後、同じ悩みに苦しんている人を多数見た時だ。

「栄養士の仕事は、人の健康を守るための食事を考える仕事なのに、自分がそうなるとは」とトーマスは嘆く。
2019年に発表された報告書では、アメリカでは2013-2018年に8%の人が摂食障害を経験している。これは2000-2006年の3.5%に比べて増えている。

食事スタイルが行き過ぎると
健康促進を訴えるインフルエンサー、インスタグラムのクリーン・イーティングは食事を良いか悪いかの二分法で説明しているが、これが良くない。2019年12月の報告では、ソシアルメディアで特に体のイメージを強調するサイトを見ている人に摂食障害の人が多いという。
ソーシアルメディアそれ自体は摂食障害を起こさないが、誤った情報を拡散させることで、摂食障害を呼び込む可能性があるとマックグレガーも言う。

悪い情報を読み続けると、自分が間違っているのに気が付かない。これがオーソレクシアの難しい面だ。オーソレクシアを治すとは、人の食事哲学に立ち入る事になる。拒食症の場合、問題は体重だけであるが、オーソレクシアの場合は抽象的であると、摂食障害を治療しているジェシカ・セトニックが言う。

治療面では、診断基準が出来ても出来なくてもあまり関係がないが、資金の調達、社会の注目度、予防手段の構築では、診断基準の確立は是非必要とセトニックは言う。

同じく、保険適用のためにも基準作りが必要だが、摂食障害はどれも保険申請が難しい。何故なら、この病気は全て身体と精神の中間に入ってしまうからだとセトニックは言う。

マーフィーは自分の経験を振り返って、オーソレクシアの診断基準があったなら、もっと早く治療を開始したと思うと述べる。
「説明が治療には大切なのです」と彼女は言う。



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