新しい不安中枢

2014年1月30日

アメリカ国民の成人の18%が不安症に悩むという。不安症患者は日常、不安に襲われ生活に困難を来たしている。今まで専門家は、不安の中枢である扁桃体に注目していた。しかしカリフォルニア工科大学では、外側中隔と言う脳部分が不安に関係しているのではないかと狙いをつけた。今回、ネズミを使った実験で外側中隔とそれに接続する脳の研究発表があった。

「今まで不安症を治す薬がなかったのは、未だ脳の不安のメカニズムが分かってなかったからです。今回、不安を加速させる神経回路が分かり、不安を和らげる薬に結びつくのではと期待している」とカリフォルニア工科大学デイビッド・アンダーソン教授は言う。

この発見は1月30日号の雑誌”細胞”で明らかにされた。カリフォルニア工科大学のトッド・アンソニー率いるチームは、いわゆる中隔海馬軸に注目した。理由は前回の研究で、この回路が不安に関係しているらしいと指摘されたからである。今までは、外側中隔は不安を抑える働きをすると考えられていたが、今回の研究ではその逆が示された。

研究では光工学を使って、ネズミの外側中隔の神経細胞に人工的刺激を試みた。ネズミは不安を示し、しかも一過性の刺激にも関わらず、ネズミは30分ほど不安状態を持続した。すなわち、外側中隔の神経細胞は不安を起こすばかりでなく、刺激が去った後もネズミを不安の状態にさせていたのである。

「この外側中隔の神経細胞は、他の神経細胞の動きを抑制するはずだったのが、結果はより不安を増幅していた」とアンダーソンは言う。

他の脳細胞を抑制するなら、なぜ不安を起こすのであろうか。研究チームは二重抑制メカニズム、即ち2度否定すれば肯定になると言う仮説を打ち立てた。外側中隔の神経細胞が脳のどの細胞に連結しているか調べた所、近くの視床下部に連結していて、それを抑制していた。
視床下部の神経細胞は室傍核に接続していて、室傍核の活動を抑制する。室傍核はストレスホルモンであるコルチゾールを分泌させるから、視床下部の動きが弱まれば室傍核への抑制が弱まり、結果的にコルチゾールの分泌は増加する。
即ち、外側中隔が視床下部の働きを抑制すれば、視床下部の室傍核への抑制も弱まり、ダブル否定の結果、室傍核はコルチゾルを分泌して動物は不安反応を示す。

実際、外側中隔を人工的に刺激すると、動物のストレスホルモンの分泌が高まるのを実験で確認した。また、外側中隔の刺激を減らすと、動物のコルチゾール分泌が下がった。

「外側中隔からの信号は不安を抑えると考えられていたのに実際は逆であったのです。このメカニズムが分かったので、薬は外側中隔の動きを抑制するものでないとならない」とアンダーソンは言う。

「薬の開発にはまだ10年はかかるでしょうが、この種の基本的研究が不安の科学を飛躍的に発展させる。過去4,50年あまり目立った薬が出なかった理由は、不安を起こす脳のメカニズムが手つかずだったからです。まだ、疑問だらけですが、外側中隔と言う脳の極小部分の研究が進み不安解明に一歩進んだ」とアンダーソンは言う。



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