ヨーロッパ製新薬による脳萎縮予防


2001年10月2日

本格的鬱病は確かに脳の重要な部分を萎縮させる。ストレスが原因と考えられるが、誰も萎縮を止める事が出来ないし、元に戻す事も出来ない。しかし今度発表された霊長類の脳による研究によるとヨーロッパ製の抗鬱剤が萎縮をストップさせるらしい。当然他の薬にもその可能性があるかどうか、研究が急がれる。
「この研究は大変面白いし、重要な発見です」とスタンフォード大学のロバート・サポルスキー博士は火曜日発行のナショナルアカデミーオブサイエンス会報を批評しながら述べている。「でも、いいですか。この薬はアメリカで一般に飲まれている抗鬱剤とは違って一般的ではない抗鬱剤の一種です」と博士は注意する。

ドイツの科学者がヨーロッパでのみ発売されているティアネピンと呼ばれる新抗鬱剤を使って試験をした。プロザックを始めとするアメリカで最も良く処方されている抗鬱剤は神経伝達物質であるセロトニンが消滅するのを防ぐ働きで作用する。セロトニンは情緒に重要な働きをする物質である。このティアネピンはプロザックと正反対の働きをしてセロトニンの再吸収を活性化する。

本格的で長く続く鬱病は海馬と呼ばれる脳の一部を萎縮させる。その割合は場合によっては20%にもなる。海馬は学習と記憶にかかわる重要な場所であるから、鬱病患者に記憶障害が見られるのが説明出来る。鬱病が治ってもこの脳の部位は萎縮が解消するように見えない。

今の所なぜ萎縮が起きるか分かっていない。ニューロンが死んだか萎縮したか、あるいは海馬に供給されるニューロンが無くなったか。いずれにせよ、この現象はコルチゾルと呼ばれるストレスホルモンと関係があるらしい。なぜなら重度の鬱病患者の半分はコルチゾルを過剰に分泌しているからである。

抗鬱剤であるティアネピンが萎縮予防に役立つかどうか見る為に、ドイツ霊長類研究センターのエベルハード・フック博士と研究グループはトガリネズミを使ってテストをした。この動物は人間と同じように社会的ストレスが加わると鬱状態になる種類のものである。

35日間にわたる研究では鬱状態になったネズミはコルチゾルを多量に分泌し、健康な脳細胞に必要な化学物質が減少した。新細胞の成長が33%落ち込み、海馬の体積が7%減少した。しかしティアネピンを服用したトガリネズミは脳内化学物質の濃度が正常に戻り、細胞の成長も再開始した。そして海馬の体積は鬱状態の前の大きさに戻った。

「このティアネピン服用による脳の再活性化は多分人間にも当てはまり、海馬の縮小は抗鬱剤の投与で予防できると思われる」とフック博士は結論する。

「興味深いのはティアネピンはストレスによって分泌されたコルチゾルの量を減らす作用をしたのでは無い、即ちティアネピンはコルチゾルの悪い影響を阻止した可能性がある。この研究は大変な成果です。しかしこの効果が実際人間にも適用出来るかどうか、あるいは他の抗鬱剤も同じ効果が出せるか、更なる研究が必要です」とアメリカ保健研究所のジェフェリー・バーカー博士は言う。

「実際この研究は古いタイプの抗鬱剤を使った後の患者に対して行われ、海馬の萎縮を確認している。誰も未だ新しい抗鬱剤使用後の海馬の萎縮の研究はしていない。更にティアネピンはそれほど鬱病に効果があるとは思えないとアメリカの精神科医師が見ている。もし抗鬱剤が単に情緒障害を治すだけでなく、神経生物学的障害も予防するとなれば大いなる進歩です。そして社会の偏見に苦しむ患者は鬱病とは単に強い意思の欠如と説明されるものではなく、真の肉体的問題であると社会に説明できる。」とサポルスキー博士は述べている。



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