脳活動地図作成

2013年4月2日
オバマ大統領は今日、オバマ政権による21世紀の大きな挑戦とされている、90億円の予算からなる”革新技術による脳研究プロジェクト”を発表した。

政府の科学担当高官はこの大統領の発案を”ヒトゲノムプロジェクト”に比較する。この発案の目的は、何百万もの脳細胞が互いに連絡する様子示す脳活動の地図を作成することにある。ヒトゲノムプロジェクトとの違い、はっきりした終点がない所であり、終点は参加した研究者に決めてもらう。しかしその作成に1年以上はかかるかも知れない。

大統領案を達成するには新しい技術が必要で、そのためには、政府民間が協力して進める必要がある。その結果達成された新しい技術がアルツハイマー、癲癇、脳の外傷、心の障害の解決に寄与するであろう。

この案は私的には”脳活動地図作成”と呼ばれていたが、公には”革新的神経科学技術による脳研究”と呼ばれることになるであろう。プロジェクトにはアメリカ国立精神衛生研究所、国防高等研究計画局、アメリカ国立科学財団が加わる予定である。
アメリカ国立衛生研究所に設置された作業班、別名”ドリームチーム”は計画、期間、目標、費用の見積もりを作成する。ロックフェラー大学のコリ・バーグマンとスタンフォード大学のウィリアム・ニューサム等がチームの指揮を取る。

このプロジェクトは、数千億円の連邦政府予算に裏づけされた広範な神経科学研究の一部でもある。金額は少しすくないが、正しく使えば神経科学の方向を変えることができるとニューサムは言う。「このプロジェクトにはまったく新しい考えを必要とする。まさにパラダイムシフトなのだ」とニューサムは言う。

現在、動物や人間の脳にワイアーを埋め込んで、ニューロンが互いに交信する様子を記録ことができるが、一度に数百程度しかできない。それを一度に数千とか数十万に高めようとすると、それには新しい理論、新しい数学、新しいコンピューター技術が必要になってくるとニューサムは言う。

大統領の決定に各方面が湧いているが、批判的意見もちらほら聞こえる。
「脳全体の地図作りとは聞こえは良いが、彼等の提案している技術では脳の解明はとても無理だろう」とエモリー大学の神経科学のドナルド・スタインは言う。
「技術の発展が先というのは逆ではないか。先ず何を調べるかを決め、次にどうやって測定するかを考える。コンセプトが先で、技術がそれを追うべきです」と彼は言う。

しかし大統領の発案を支持する人たちの中には、このプロジェクトを、1950年代のソ連のスプートニク衛星打ち上げに例える人がいる。あの時はアメリカは大変なショックを受けて月に最初に到達する決意をした。
「今や時代が違う。ナノテクノロジーを駆使して脳活動の地図を作るべき時に来ている」とカリフォルニア技術研究所のマイケル・ルークは言う。

オバマ政権が支出する金額はヒトゲノムプロジェクトに比べれば少ないが、それでもこのプロジェクトが及ぼす影響は各方面に大きいと言われている。

カリフォルニアのソーク研究所もこのプロジェクトに資金を出している。研究所のコンピューター生物学研究室のテレンス・セジノスキーは、影響はカリフォルニア大学サンディエゴ・キャンパスにまで及ぶであろうと言う。「学長も興奮して投資しようと言っている。教職員を増やして大学を拡大するチャンスです」とセジノスキーは言う。

この発案はそもそも2011年9月ロンドンで催された神経科学者とナノ技術科学者の学際的会合で最初に提起された。この会合は、次の科学大発見は学際的研究から起きると信じているカブリ財団分子生物学者のミヨン・チュンが取り仕切った。
「最近政府の科学への支出は少なく沈滞しています。これを打ち破るには皆が目を覚ますようなプロジェクトが必要です。”脳活動地図作成プロジェクト”はこれにぴったりでしょう」と彼女は述べる。



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