強迫行為の原因

2018年11月29日
Neuroscience
出典:University of Michigan


手を頻繁に洗ったり、電気を消したり、つけたりを頻繁に繰り返し、その行為を止められなくなった心の病気を強迫行為と言う。本人もおかしいと考えているこの病気は、未だ原因は分かってないし、療法も十分ではない。

最近の研究は、強迫行為では脳が正常に活動していないと指摘する。研究では、強迫行為の患者数百人と、健康な人の脳スキャン写真をメタ解析と言う手法で分析している。

エラーと停止シグナル
ミシガン大学の研究室は、世界中の強迫行為の患者の脳スキャンのデータを集めてメタ解析し、その成果をBiological Psychiatry誌に発表した。
「強迫行為の脳ではエラーに対して強く反応するが、停止シグナルに対して反応が弱い」と研究を指導したルーク・ノーマン氏は言う。「500人の患者と一般の健康な人の脳スキャンを比較して分かったのは、今まで疑われていた脳神経回路が、実際病気に関わっているらしい」と彼は続ける。

「強迫行為では、脳のエラー処理と停止の動作に問題が生じている。患者自身自分の行動をおかしいと思っているが、それを停止することが出来ない」とミシガン大学のフィッツジェラルドは言う。

研究では、脳の中の”cingulo-opercular network”に焦点を当てている。脳の深部にあるこのネットワークは、エラーを検知すると前頭葉にそれを伝え、行動を開始させる役割をする。強迫行為の患者では、間違いを認知する脳が活発であるのに対して、行動を停止させる脳が不活発であった。但し、これが強迫行為を起こす原因になっているのか、強迫行為の結果生じたのか分かっていない。

ブレーキがつながっていない
強迫行為の患者では、間違いを発見する脳と、行動を命令する脳の間の接続があやしく停止させる力が弱いため、間違いに対して過剰に反応するのではないかと専門家は言う。
「ブレーキを踏めの信号を受けて足をブレーキに載せるが、ブレーキは車輪につながってないと考えたら良い。療法としては認知行動療法があるが、患者の半分にしか有効でない。今回の発見が認知行動療法の改善につながれば良いし、出来るなら新しい療法を考えたい」とフィッツジェラルドは言う。

臨床への応用
強迫行為は以前は不安症に分類されていたが、今では別の病気とされている。強迫行為の患者に取っては、自分自身を制御できないために不安になるのであって、不安は結果として起きている。
ミシガン大学では、十代から45歳までの強迫行為の患者と健康な人を招いて、3か月間認知行動療法を実施する。最初と最後に2回、脳スキャン検査をして効果を調べる。 あわせて、最近政府により認可された経頭蓋磁気刺激法も実施する。そこでは、経頭蓋磁気刺激装置を使って患者の脳に磁気を照射する。「この試験により、何処を磁気照射すれば良いか分かるだろう」とフィッツジェラルドは言う。


強迫行為の脳
上段の写真は強迫行為の脳で、間違いを検知するネットワークが過剰活動している。下の写真も強迫行為の脳で、動作停止を命令するネットワークが不活発になっている。

最近では酷い強迫行為の患者には、外科手術も応用されている。手術では当該の部分をメスで切ったり、電気エネルギーで焼き切る。また電極を挿入する場合もある。

ノーマン、フィッツジェラルド、テイラー等は、強迫行為の患者と家族に希望を持つように言う。「強迫行為は大変難しい問題であるが、次第にそのメカニズムが見えて来た」とノーマンは言う。 「純粋に医学の問題であり、個人には責任がない。心臓外科医が患者の心電図を見るように、我々は脳スキャンで脳を見る。近い将来、良い療法が見つかる事を期待する」とフィッツジェラルドは言う。



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