強迫行為及び薬物依存と
前部帯状回皮質との関係


2002年 5月30日

 サルの脳を使った実験から強迫行為、薬物依存になる人の謎が少し解明された。
31日号の「サイエンス」によると前部帯状回皮質(Anterior cingulate cortex)と呼ばれる部分が問題を発生している可能性がある。この部分は動機付けとその行動に関わる重要な部分である。サルがある目的行動を達成して報酬を受けそうになると、この部分にある一塊の神経細胞群の働きが変化する事がこのほど分かった。

「この報酬回路の異状が人を強迫行為に駆りたてたり、苦痛を和らげる為に薬物に走らせる衝動を作っているのでしょう」とNational Institute of Mental Health Laboratory の神経生理学者であるベリー・リッチモンド氏は言う。強迫行為とは邪魔な考えを追い払おうと虚しい努力を繰り返す神経症症状です。彼は日本人研究者であるシダラ・ムネタカ氏(国立最新産業科学技術研究所勤務)とこの研究をしている。

コンピューター上に現れる異なった色の物体を見た時に棒を握ったり放したりするように訓練したサルを使い、その脳の中に電極を埋めこみ反応を調べた。もし物体に対して正しい棒の操作をした時にはジュースが少し与えられた。ジュースが貰えそうになるとスクリーンの上部にある棒が明るく輝く時もあるが、関係無く明るさが変化する時もある。

ゴールが間近になり棒が明るく変化するとサルの間違いが減る。棒の明るさが無関係に変化する時はサルの間違いの度合いも変化しなかった。サルの脳細胞の回路は精密に出来ていて、わずか数十個の脳細胞の活動が変化する様子を観察出来た。

正確には33個の脳細胞であるが、サルがゴールに迫ってくると活発さを増した。しかし関係が無く棒の明るさが変化した時は反応しなかった。リッチモンドによるとこのわずかな脳細胞群が強迫行為、薬物依存を起こす原因の一部になっているのであろうと言う。

「こう考えて見たらどうだろう。貴方がこのようなシグナルを受けているとしよう。しかもかなり強く。するともっと努力して何とか得ようとする。もっともっとと努力して最後は満足すると考える。我々の想像ではこのシグナルが強迫行為患者では消える事が無いと考えるのです。あるいは薬物依存では麻薬がこのシグナルに満足感を与えるのでしょう」とリッチモンド氏は言う。

「今までの脳スキャンを使っての研究によると強迫行為、薬物依存には前部帯状回皮質(Anterior cingulate cortex)の異常が認められるし、他の感情と行動に障害を持つ病気でも同じです。この研究から我々のこの種の病気に対する態度、あるいは社会の通念を変えないとならないかも知れない」とローラ・ピープル氏(ペンシルバニア大学の精神科助教授)は言う。

「麻薬中毒患者は倫理観、モラルが欠如していて自分でコントロールが利かない人達と多くは考えますが、この人達の脳では前部帯状回皮質とか他の皮質が作動しなくなっているのです。この部分こそが意識の源泉であるのに、そこが働かなくなっている」とピープル氏は言う。

「恐らく強迫行為とそれに近い症候群も同じ原因を持つのでしょう。しかし麻薬患者では警察と法律が先に来てしまう。麻薬患者は先ず病人として治療すべきであって逮捕すべきでは無いでしょう。何故なら脳の中枢に問題がある人を牢屋に入れても解決しないからです」とピープル氏は言う



脳科学ニュース・インデックスへ