強迫行為とグルタミン酸エステル搬送体遺伝子の関係

2006年7月26日

強迫行為は家族間に発生する傾向があり、その家族は数世代に渡り強い不安と意味のない儀式的繰り返し行為に悩まされる。実際、強迫行為は家族間に遺伝し、その発生率はそうでない場合に比べて9倍も高い。

1つの遺伝子だけが強迫行為を起すとは考えられないが、今回の研究ではある特定の遺伝子が強迫行為の発症に深く関わっていると指摘している。

ミシガン大学、イリノイ大学、シカゴ大学、トロント大学の研究者等がArchives of General Psychiatryに発表した所によれば、強迫行為とグルタミン酸エステル搬送体遺伝子(SLC1A1)には強い関連があった。

この遺伝子は脳細胞の中のグルタミン酸エステルの流れをコントロールするEAAC1と呼ばれる蛋白質をコード化している。この遺伝子の変異体はグルタミン酸エステルの流れを変化させ、強迫行為発症のリスクを高める。

この発見が重要なのは、今回、同じ発見が2回報告されたばかりでなく、今までの研究でもグルタミン酸エステルと強迫行為の関係が指摘されていたからである。脳スキャンと脊髄液の研究では、強迫行為の患者と健康体では、特にEAAC1と呼ばれる蛋白質がある脳の部位に、グルタミン酸エステルシステムの違いを認めた。

「これらの研究から、グルタミン酸エステル搬送体遺伝子(SLC1A1)は強迫行為遺伝子と推測する。グルタミン酸エステルの活動が脳のある部分で変化すれば、それが強迫行為を引き起こすと考えても不思議ではない」と今回の報告書の著者であるグレゴリ−・ハナ氏は言う。

ハナ氏と共同研究者であるエドウィン・クック氏は強迫行為の患者とその家族のDNAを調べ、個人的にも面接して調査した。

グルタミン酸エステルと強迫行為の関連性が今回裏付けらたが、専門家はまだ強迫行為の治療には時間がかかると注意する。

4年前にミシガン大学とイリノイ大学の研究チームが強迫行為の患者と家族の遺伝子調査をして、第9染色体上のグルタミン酸エステル搬送体遺伝子領域上の変異体が強迫行為に関連していると発表している。

それ以来、この遺伝子とその近傍の遺伝子が注目を浴び、single nucleotide polymorphismsと呼ばれる分析方法で調べられている。この分析方法では、一定の遺伝子だけにしぼり、独特の個人差を調べる事が出来る。トロントの研究チームは、やはり同じ領域の遺伝子を子供と大人の強迫行為患者とその家族について調査している

ミシガン大学とイリノイ大学の研究では71人の子供と大人の強迫行為患者とその両親を調査して、グルタミン酸エステル搬送体遺伝子の数ヶ所の変異が若年発症型強迫行為の原因では無いかと推定している。その中でも、2箇所の変異が男子若年発症型強迫行為を引き起こす遺伝子ではないかとして関係者を驚かせた。若年発症型強迫行為は女子より男子に多い。強迫行為のおよそ半分の人達が少年時代か思春期に最初の強迫行為を経験する。

トロント大学の研究では、157人の強迫行為患者とその第一親等家族を調査し、グルタミン酸エステル搬送体遺伝子上の3箇所部分での変異が強迫行為発症に関係していると発表している。これを見た2人のイェール大学研究者が大変有望と評価し、更なる研究を呼びかけている。「今回の研究から、グルタミン酸エステル搬送体遺伝子の変異体が強迫行為を起す遺伝子であると推定される」と2人は言う。

強迫行為研究には遺伝子を調べるのも重要なことだが、環境要因、例えばホルモンとか細菌感染を調べるのも重要であるとハナ氏は付け加える。

ハナ氏はミシガン大学で小児神経症とチック障害部門の責任者をしている。連鎖球菌による感染が疑われる児童オートイミューン神経精神障害(Pediatric Autoimmune Neuropsychiatric Disorder)をここでは研究し治療もしている。この障害は子供に強迫行為とチック症を起す。

ハナ氏等は、最終的にグルタミン酸エステル搬送体遺伝子をターゲットにした薬を開発をしたいと考えている。同時にゲノムの他の領域にも調査を延ばして、強迫行為遺伝子を探求している。



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