大人の脳に新しい可能性 |
2000年8月14日 |
フレッド・ゲージが登場するまで脳科学者の大半が脳細胞即ちニューロンは我々が生まれたときに持っていた数が全てでそれ以後増加しないと信仰のように考えていた。わずか2年前にカリフォルニア州ラホラにあるソーク生物学研究所のこの49歳になる神経生物学者が革新的実験結果を示した。それによると脳細胞は継続的に再生産されていて特に学習と記憶にかかわる脳の部分で再生産されている事が分かった。ゲージの発見で科学者達は最も基本的問題で考え直さなければならなくなった。それは脳とはどう機能するかである。 更に驚かされるのはこの脳細胞の供給源は神経幹細胞と呼ばれる基本細胞で、この細胞は成長する過程で受ける化学信号によりあらゆる脳細胞に成長可能なものである。この幹細胞は更に皮膚、血液、肝臓等何にでも変化成長する原始的肝幹胞の一群に属する可能性をこの実験では示唆している。ゲージは大脳辺縁系内にある海馬の一部に活発に生育している神経幹細胞が存在している事を突き止めた。彼はこの幹細胞の再生産が脳内化学物質の中にある幾つかの成長因子の増減でコントロールされているのではないかと考えている。 今日科学者はもはや脳が新しい神経細胞を生産しているかどうかは議論しない。その代わりこの脳細胞の成長が如何に癲癇やストレスや鬱の治療に役立てるかに移っている。既にある種の動物実験では動物がストレス下にあるとき脳の学習センターでの神経成長が著しく低下する事が分かっている。これは我々がストレスが加わった後に鬱が発生する事実を裏付ける物である。 ゲージは行動の変化例えば運動をする事が神経成長に影響与える可能性があり脳内再配線が可能では無いかと考えている。かれは「この発見で自分自身を変られる可能性が出た」と言う。我々は今まで心が体をコントロールすると考えていた。これが逆転するのであろうか。我々の行動が脳の構造を変える事があるのであろうか。遺伝子要因か環境要因かの従来からの考えを頭に求める大変過激な思考である。ゲージが長い間信じられてきた生物学的事実をひっくりかえしたのであるから十分考える価値がありそうである。 脳科学ニュース・インデックスへ |