強迫行為よさらば

2013年6月6日

ねずみの脳の一部回路を活性化することにより、強迫行為を止めることに成功したとマサチューセッツ工科大学の研究グループが発表した。この成果が、将来強迫行為やツーレット症候群の新しい治療につながることが期待される。

アメリカでは人口の1%が強迫行為で苦しんでいると言われている。患者は普通、抗不安剤や、抗鬱剤が処方され、行動療法も薦められている。困難な患者には脳深部刺激療法という、患者の脳にペースメーカーが埋め込んで電気刺激を与える療法も試されている。

この研究では、光遺伝学技術を使って、光で脳のニューロンの活動を制御した。強迫行為を発生する直前の脳活動シグナルを捉えることができるから、脳深部刺激療法でも、適切なタイミングで必要な場所を選んで刺激を与えることができるようになるであろう。

「今後は、脳深部刺激療法でも刺激は何時もやる必要がなく、刺激の強さも微細で済むかもしれない」と研究を発表したマサチューセッツ工科大学のアン・グレイビール氏は言う。

グレイビールは、以前普通の癖を直す実験に取り組んでいたが、最近はねずみを使って強迫行為を停止させる研究に取り組でいる。
実験では、線条体の神経細胞シナプスにある蛋白をコードするSapap3という、特殊な遺伝子を欠いたねずみを使った。線条体は依存癖、繰り返し行動に関連する脳であり、意思決定、計画作成、報酬への反応にも関与している。このねずみにある音の直後に鼻先に水をたらして、毛づくろいを強制的に起すパブロフの条件反射と同じ学習させ、毛づくろいを開始するようにした。数百回訓練すると、普通のねずみもノックアウトねずみ(Sapap3遺伝子を持たないねずみ)も、水がたれる1秒前に毛づくろいをする。

しかし訓練をしていくと、2つのグループに差が出始め、正常なねずみでは水が滴り落ちる直前まで毛づくろいを待つようになるのに対して、ノックアウトねずみでは、音が鳴った瞬間に毛づくろいを開始した。

音が鳴ってから実際に水が落ちるまで待つ行動を”行動の最適化”と呼ぶ。一般に行動の最適化により動物は少しでも無駄な行動を減らすことができる。この行動の最適化がノックアウトねずみにはついに実現しなかった。即ちノックアウトねずみでは強迫行為を停止させる能力を失っている。

原因は、線条体と新皮質の連絡の悪さではないかと研究者は推測している。線条体は癖に関係し、新皮質はより高度の思考の中枢で、単純な行動を阻止する力がある。それが正しいかどうか確かめるために、光遺伝子工学を用いて脳細胞に光に感応する細胞を作り上げた。

実験では、遺伝子工学を施したノックアウトねずみに、音が鳴ると同時に光を照射した。すると、何時も音が鳴ると同時に毛づくろいを開始するノックアウトねずみが、その行動を停止した。専門家は、皮質神経細胞からシグナルが線条体に送られ、これが線条体の他の細胞の活動を沈黙させたと解釈する。

「強迫行為が止まらない動物でも、ある回路を活性化することにより、その強迫行動を停止できることが分かった」と研究を発表したエリック・バーギルは言う。研究では音の訓練をしないねずみにも光照射を試みて、毛づくろいの様子を観察した。ノックアウトねずみもかごの中で3分間光を照射すると、その毛づくろいの時間が大幅に減少しているのを確認している。

「これで強迫行為の輪郭が細胞レベルで見えてきて、治療の可能性が一歩進んだ」とアサチューセッツのマックリーン病院のスコット・ローチは言う。
グレイビールとバーギルは今、強迫行為が始まる時に現れる脳のシグナルを調べている。



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