胎児の脳の遺伝子の過剰表現と統合失調症

2009年8月28日

胎児の脳の遺伝子の過剰表現が統合失調症の発症に関係している。

20年前のあるスコットランドの大家族の調査から、DISC1と呼ばれる遺伝子が統合失調症の発症に関係しているのではないかと今まで考えられてきたが、何故DISC1遺伝子が統合失調症発症に関係しているかが分からなかった。所で統合失調症では感情と記憶の機能に障害が起きているが、DISC1遺伝子は脳の発達と感情及び記憶に重要な蛋白質をコードしている。

今回の研究は、発達段階にある脳でDISC1遺伝子が過剰表現に表現されていて、それが脳の発達に混乱を起こすのではと指摘している。以前から、短いタイプの遺伝子が胎児が生まれる前にその後より2,5倍も活発に表現しているのが分かっていた。他の遺伝子では発達段階を通して過不足なく表現されている。

「この短いタイプの遺伝子が短いタイプの蛋白質の活動を活発にさせているのでしょう」と研究を指導したジョエル・クレインマン氏は言う。

あるスコットランドの大家族では、家族メンバーの半分以上が統合失調症ないしは重大な精神障害を発病している。その原因として、今まで部分的染色体のミスマッチ(ある染色体の一部が他の染色体に付着する)のためとされてきた。しかし、短いメッセンジャーRNAのミスマッチは短いタイプのDISC1蛋白を生産するから、他の家族でも同様の現象が起きるはずであるが、他の統合失調症発症の家族には見られない。

研究では、DISC1遺伝子の変異体が、短いメッセンジャーRNAを生産して統合失調症発症リスクを増大していることが分かった。短いメッセンジャーRNAは胎児の脳が形作られるときに顕著に表現されている。

「長いこと心の病を発症する遺伝子が追求されて来たが、全て再現性に失敗してる。理由は、違った遺伝子の変異体が似ているメッセンジャーRNAや蛋白質を作り出していたからです。違った遺伝子変異体が同じ病気の発症を説明するということは、再現性が無いではなくて再現性があったのです」とクレイマン氏は言う。

統合失調症の原因とされる6つほどの遺伝子は、DISC1遺伝子に関係しているので、異常な作動をするDISC1遺伝子が統合失調症を発症させていると十分考えられるとクレイマン氏は言う。

短いメッセンジャーRNAを作る遺伝子変異体の一つは白血球内にあるから、その変異体が将来統合失調症の遺伝子マーカーとして使われる可能性がある。



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