ペースメーカーによる鬱病治療 2001年6月13日 |
ロウリ・サンドバルさんは元公報関係の仕事をしていたが、犬小屋掃除の仕事に職替えしなければならなかった。同時にサイズ4の衣服からサイズ18に、尊厳のある生活から囚われた心の生活へと変化した。2年に渡る生活の降下は何だったのか。それは重症の鬱病だったのです。 「鬱病が深刻になって仕事の継続が不可能でした。注意を集中出来ないし、間違いだらけでした」とサンタフェに住むサンドバルさんは言う。でも今日は驚くほど鬱病が治っている。奇跡をもたらしたのは実験段階の装置でこれが鬱病を上手くコントロールしている。 彼女の肩に埋め込まれた心臓ペースメーカーに似た小型の装置が3分置きに30秒ずつ電気信号を彼女の脳に送っている。「大げさに言うのは嫌ですけど、前は全く普通の生活が出来ませんでした。その最悪の状態から今は健康な状態に戻っているのは事実です」と彼女は言う。 彼女のケース以外にも成功例があり、この迷走神経覚醒装置に大変注目が集まっている。「装置による身体的、認識的そして社交的向上は大した物で将来性は大変有望です」とベイラー医科大学の精神医療センターのロウレン・マランゲル氏は言う。 アメリカ食品薬品局はこの迷走神経覚醒装置をひきつけ治療に使用する事を認可した。サンドバルさんのような鬱病にこの装置が安全で効果的か現在調べている。装置はヒューストンのサイバロニクス社製です。同社は既にヨーロッパとカナダでこの装置を売り出していますが、2年以内にアメリカでも発売が出来のではと期待している。 認可されればこの装置はアメリカ人口の約1.5%はいると思われる鬱病患者に希望を与えるものである。投薬も多くの効果をあげていて、抗鬱剤の売上は全薬品の売上のかなりの部分を占めている。(鬱病が1年間に社会に与えているコスト即ち薬代、病院代、失われた労働日数、その他を金額に換算すると四兆円以上になる) しかしながら患者の約3分の1にあたる繰り返し起きる、しかも重症の鬱病には薬も効果が無い。このタイプの鬱病に対しては電気ショック療法が一般的である。しかしこの療法は高価であり継続的にしないとならない。また全身麻酔をするので危険も伴う。 迷走神経覚醒装置は鬱病を内側から攻める。成功の鍵を握るのは迷走神経であり迷走=ベイガスはギリシャ語でさすらう者を意味しますが、この神経は大人の上半身を60cm程さすらうように張り巡らされていて信号を脳や他の重要な内蔵へ送り込んだり又そこから発信したりしている。 「迷走神経は脳にとってインフォメーションスーパーハイウェイです。この神経を通って全ての内臓から情報が伝わります。例えば心臓がどきどきする時、迷走神経を通ってそれが脳に伝わって来ます」とマークジョージ博士(チャールストンにあるサウスカロライナ医科大学の精神医学、放射線医学、神経学の権威)は言う。 この神経は電気信号を脳に送るには都合が良く出来ている。何故ならこの神経束には痛みを送る神経繊維が少ないからです。迷走神経に送られたシグナルの内80%以上は脳に届く。シグナルが脳の患部に届くと気分をコントロールする部分が活性化される。 重症のひきつけを起こす患者1100人にこの装置を体に埋め込んで治療した所、そのうちの何人かは幸福感を得ているのを発見している。この装置がアルツハイマー、不安症、肥満の治療に有効かどうか現在試験中です。 ストップウォッチの大きさであるこの装置は電池で作動して5年から10年使用出来ます。電池が消耗した時は装置を交換します。この時迷走神経との連結は簡単に外すことが出来新しい装置に接続します。医師はコンピューターと磁石がついた棒で装置を操作して脳に送るシグナルを調整します。患者も自分で好きな時に装置をオン、オフに切り替える事が出来ます。 この操作は大事で例えば発信されたシグナルが患者の声を変えるときがあります。サンドバルさんも話そうとして突然数秒間声がかすれているが普通の会話ではその変化は気が付かない程です。 この装置を長期間使った時の効果はまだわかっていない。 マイナス面 *強い磁石を持つラウドスピーカーやバリカンはあやまって装置を作動させる事がある。 *MRIとか超音波を使う医療が装置を妨害する事がある。 *患者が持ち運ぶ装置をオフにする磁石が強くてクレジットカードやコンピューターのハードディスクに影響を与える場合もある。 長い事心臓ペースメーカーが使われてきたその経験からこの装置も電子レンジ、携帯電話、金属探知機、その他の電気製品により影響を受けることは無いのではと考えられている。 サンドバルさんのような人には長期に渡る効果とかマイナス面の但し書きはどうでも良いのです。「私はもう待てないのです。2度も自殺未遂をしていて又何時でも起きます。これが唯一の希望です」とサンドバルさんは言う。 脳科学ニュース・インデックスへ |