抗鬱剤の妊娠に及ぼす影響

2011年10月24日

最近の研究よると、ねずみの赤子を使った実験で、ねずみが生まれる前後に抗鬱剤を投与されると、ねずみの脳に大きな変化が起きることが分かった。

実験では抗鬱剤であるSSRIの一種のセレクサをねずみに与えたが、左右の脳を結ぶ長い神経細胞に発育阻害と劣化が見られた。SSRIを受けたねずみは新しい環境に臆病になり、仲間にも入って行けなかった。これは新奇なものを避け社会性を失う人間の自閉症に似ていた。異常がねずみのオスに顕著に現れるのも人間に似ている。人間でも自閉症の発症は男の子が女の子より3〜4倍も多い。

「我々の発見から、健全な脳の発達にはセロトニンのレベルが正常でなければならないのが分かる。セロトニンはありすぎても良くないし、少な過ぎても良くない」とミシシピ医療センターのリック・リン氏が言う。

リン等は2011年10月の”National Academy of Sciences”の会報の中でこの報告を行う。

今年の7月には母親が抗鬱剤を飲んだ場合、その子供が自閉症になる確率が高いとの報告があった。それによると、出産前の1年に抗鬱剤を飲んだ母親からは通常より2倍の確率で自閉症の子が生まれていた。特に母親が妊娠後最初の3ヶ月にSSRIを飲んでいた場合に顕著に現れていた。先月の報告では、同じ条件の母親から生まれた子供ではその動作に僅かな遅れが認めらるとしたが、大方標準の範囲に入っていた。

「ねずみに現れた薬の副作用が人間にも現れるかは大いに疑問ですが、抗鬱剤が成長する脳に影響を与えるのが分かった。母親の心の治療も大切ですが、生まれてくる子供の健康も考慮する必要があります」とインセル氏は言う。

以前から、セロトニンは誕生直後のねずみの脳発達に重大な役割をしていることが分かっていた。この時期にセロトニンを与えると脳皮質の感覚処理分野の発達を妨害し、ねずみは情緒不安定で攻撃的になった。

人間でも胎盤からのセロトニンが胎児の脳発達に重要な役割をしているのが最近報告されている。この時期にセロトニンの補給が遮断されると、子供に不安障害を起こす可能性がある。

リン等はSSRIの一種類であるセレクサをオス、メスのねずみに胎児期と生まれた直後に与えてその脳の発育とその後の行動を調べた。特にオスの場合、SSRIの影響を受けたねずみは、今まで経験したことがない音や物、匂いにたじろいだ。この行動は大人になるまで続いている。また、子ねずみ同士の遊びにも加われなく、人間の自閉症の子供の行動に似ていた。

ラッフェ・システムと呼ばれるセロトニン回路では、SSRIに影響されて神経線維の密度が大幅に減っていた。このセロトニン回路の発達障害は脳皮質のみならず他の脳領域、例えば海馬にまで及んでいた。

脳梁と呼ばれる脳の左右の半球を結ぶ回廊でも連結の欠陥が発見された。軸索と呼ばれる神経細胞から長く伸びた部分にも変形があり、軸索を包むミエリンと呼ばれる絶縁体が3分の1の薄さになっている。障害はメスよりオスに3倍も起きていた。そのため、脳の左右半球の交信に異常を来たしているであろうと専門家は言う。



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