2011年11月10日 |
先日、テキサス州知事のリック・ペリーは共和党大統領候補によるディベートで、3つある政府の部局の内の1つの名前がどうしても思い出せなく口ごもってしまった。この部局とは政府歳出削減の一環として彼が日ごろ必要ないと主張しているものである。彼は話題を変えたりして色々試みたがやはり出てこなく、赤っ恥をかいてしまった。
この失態が彼の大統領候補としての将来に影響するかどうかは言えないが、以来脳の専門家の間で、俗に”脳フリーズ”と呼ばれる現象が話題になった。この現象は、我々誰もが日常経験する脳の些細なトラブルである。 「起きる原因としては我々が何かを思い出そうとする時、脳は他の脳部分に検索指令を出すが、その何処かで問題が発生するとこのような瞬間的メモリーロスが起きる」とミシガン大学の神経科学のダニエル・ワイズマン氏は言う。 ペリー氏の失態は彼だけのものでなく、例えば今年歌手のクリスティーナ・アギレラがスパーボール開会式での国歌斉唱で歌詞を忘れしまった。司法省長官のジョーン・ロバーツ・ジュニアは、オバマ大統領の就任式で宣誓を言い間違えて、翌日再度やり直しを考えたことがあった。 専門家によると、このような記憶障害は我々の生活で頻繁に起きていると言う。例えば貴方がある部屋に入って来て”あれ、何の用だったのだろう”と一瞬用事を忘れたことがあったであろうし、口元まで来ているのに人の名前が出てこない経験があると思う。 初代アメリカ大統領の名前とか、子供の誕生日などは誰でも努力しないでおぼえていられるが、最近覚えたもの、たまにしか言わないものになると我々は脳内を記憶を求めて戦略的検索をしないとならない。まず前頭前野皮質を活性化し、そこから内側側頭葉に向けて記憶を検索する。内側側頭葉には記憶が保管されていて必要な時はここから引き出すことが出来る。 もし総てが上手く行くと、内側側頭葉には図書館のカードのようなものが用意されているから、そこから必要な記憶の断片を脳内の格納場所から引き出す。しかしペリーの場合は間違ったカードを引き出したか、間違った場所を検索したかで行き詰ってしまった。 多分ペリーは何かに気を取られたのかも知れない。この失態の直前に対抗馬のロン・ポールに視線をやっている。この瞬間、彼の思考に不連続線が発生したかも知れない。あるいは考えが先走り混乱が生じたのだろう。強いストレスなども海馬の機能に問題を生じさせ、過去の記憶を一時的に取り出せなくなることがある。 「ライトを浴び人々の注目が集まっている。格好よく意見を述べるがそれが必要以上のストレスを生み、一瞬記憶を失う。もぐもぐしているうちに見かねてディベート相手から助け舟が出されるが、それが一層立場を苦しくさせる」とイリノイ大学心理学のニール・コーエンは言う。 ペリーは彼の選挙参謀と政府の費用削減策全般を直前まで話していた。この時の記憶が、彼が今言おうとしている政府の部局の名前を思い出すのを妨害したのだろう。我々も同じような経験をする。例えばスパーから出てきて、さて自分の車はどれだろうかと駐車場を見回して、余りに多い車に何処へ自分の車を止めたか一瞬忘れてしまったような場合だ。 「記憶をたどる時、脳内にはスパー駐車場の記憶が沢山詰まっている。この記憶と今日止めた記憶がごっちゃになっている」とワイズマン氏は言う。 最近はfMRIを使って単純な作業をする時の人の脳の様子が研究されている。我々は単純作業を続けると注意が散漫になるのを経験している。例としては高速道路を運転している場合、余りにスムーズな運転で気がついたら出口を通過していたと言う経験は誰でもしていると思う。実験で分かったのは、脳は単調な環境が続くとデフォルトモードに入り、注意に払うエネルギーを省略し始めるのが分かった。 「脳は単調な環境に入ると怠け始めのですね。外の連続する光景をみてしばらく条件が変わらないだろうと脳は予定するのです」とノールウェイ、ベルゲン大学神経生理学のトム・アイチリ氏は言う。 ストレスのためか、錯綜する記憶のためか、あるいは何かに気を取られたためか分からないが、ペリー氏のような出来事は我々にもしばしば起きる。 脳科学ニュース・インデックスへ |