先送り病

2020年1月24日


多くの物書き同様、私も先送りが酷い。仕事の締め切りが近づいているのに、無意味にテレビの政治関係の番組を見ていたり、ユーチューブでボクシング中継を見ていたりする。あまり酷い時は、自分自身おかしいのではないかと感じる。

従来、先送り病は時間管理がヘタな人の病気であった。即ち次の仕事にどれだけ時間を必要としているかの認識に欠けて、無駄な時間消費を気にかけない人の問題であった。それなら時間の管理の仕方を学べば先送り病も止むという事になる。

しかし次第に心理学の専門家はこの理論に疑いを持ち始めている。カーレトン大学のティム・フィチルとかイギリス・シェフィールド大学のフシア・シロイスなどは、先送り病は時間管理の問題ではなくて、感情のコントロールに問題がありと見ている。

ちょっと気分を変えるだけ
最初に先送り病に面白い分析を加えたのは、2000年代の初めの、オハイオ州にあるウェスターンリザーブ大学の発表であった。

心理実験をして、参加者に悲しい読み物を読んでもらうと、物事を先送りする傾向があるのが分かった。この場合、特にビデオゲームとか目の前に面白いゲームなどがあった時に目立った。そこで、実験参加者に気分の落ち込みを機械的に停止させる訓練をさせると怠慢癖は消えていた。

感情を調節する事により先送りが改善すると言う心理実験は面白い。私の場合は、仕事の時間見積もりが悪い分けではなく、ユーチューブの見過ぎでもなかった。実際ユーチューブを楽しんでいたわけではなく、単に仕事を開始する気に今一つならなかっただけだ。心理学で言う所の、”長期的目的達成を犠牲にして、短期的気持ちの良さに耽溺する”と言うやつだ。

先送り病が感情に関係しているのは、ユーチューブの猫の動画を見る現象によく現れている。インディアナ大学のジェシカ・ミリックの調査では、人々は単に先延ばしをする手段に猫の動画を見たと言う。動画を見る目的は、何かもっと重要な事を取り掛かりたいが今一つ気持ちが重い時に、その準備運動として見ているに過ぎないのが分かった。

この調査でも、動画を見て何かうしろめたさを人は感じている。先送りだけでは問題が解決しないのだ。短期的には気分転換になっても心理的圧力は増大する。実際私もそれを経験している。

フシア・シロイスの研究によると、重症の先送り症状では心理的、肉体的症状を伴うとしている。即ち不安、鬱状態を引き起こし、その結果、風邪インフルエンザになり易いこと、更に心血管障害を引き起こしやすいとしている。

このような好ましくない結果を引き起こす原因としては、第一に大事な事を後回しにする事により精神的に不安定になる。 二つ目は、健康を損なう行動に走り勝ちになることだ。間食に耽るのが一例で、「このような事が重なると、心臓病、糖尿病、癌等の原因にも成り得る」と彼女は言う。だから、先延ばし病を治すのは健康維持に大変有益なのだ。

開始するだけ
所で先延ばし病を適切に治す方法があるだろうか。 認知行動療法の一派で受容と献身療法(Acceptance and Commitment Therapy)と言うのがある。ここでは心を柔軟に維持することと、不快な感情があっても、その場を離れずに行動に移す事を薦める。
最新の研究でも、先送り病の強い学生はメンタルの面で健康でないのが分かった。彼らは不満、不安で満ちていて、前に進めないとこぼす。

この”受容と献身療法”では、心理的柔軟性の回復と行動力の維持を目指す。もちろん誰もこの療法を受ける分けではないから、良い方法がないかと言いながら時間だけがたつ。

では今すぐ効果があるやり方はあるだろうか。
「目の前の一歩から開始しよう。何かを開始するとそのまま前進する。思ったより簡単なんですよ」 とフィチルは言う。



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