2022年8月25日 |
水曜日、JAMA Psychiatry誌に発表された キノコの幻覚物質(シロサイビン)を使うアル中治療の試験で、シロサイビンはアルコールを飲む量にして83%の削減効果があることが分かった。比較のため偽薬を飲んだグループでは削減率は51%であった。試験は8か月続き、終わりの頃にはシロサイビンを飲んだ人たちでは半分の人が禁酒に成功したのに対して、偽薬を飲んだ人は4分の1であった。 現在、鬱、不安、PTSD、死期に襲う不安等を解決するために、各種幻覚物質を使った試験が行われている。幻覚物質(シロサイビン、LSD、MDMA=エクスタシー等)の利用は違法であるが、食品医薬品局はその可能性を見ている。アメリカでは現在成人の5%である1500万人がアル中で苦しんでいて、毎年14万人が亡くなっている。 「今回の発表はアル中治療に希望を与えた。アル中は深刻な健康問題で、既存の治療法ではあまり効果を上げていない」とニューヨーク大学のマイケル・ボジェンシュツは言う この試験は93人が参加して8か月間行われた。 参加者は2つのグループに分かれ、最初のグループはシロサイビンを渡され残りのグループは偽薬である抗ヒスタミ剤を渡される。試験では薬を飲むと同時に12回の心理治療も受ける。シロサイビンの量はその人の体重で決定する。処方後は心拍数と血圧を測定する。 なお試験ではシロサイビンの副作用は報告されてない。しかしテストに一つだけ問題があり、二重盲検法にも関わらず、シロサイビンを処方された人たちはそれが本物であるのが分かった。 「本物と分かってしまえばテスト結果に影響する。そこが幻覚物質のテストをする難しさです」と報告書の著者が言う。 参加した一人であるオレゴン州からのマリー・ベスは、シロサイビンでアル中から解放されたと言う。彼女の飲酒は飲みつぶれるとか、人に迷惑をかけるとかではないが、毎晩飲み、朝方は空しさで苦しみ人生は壊れたと言う。 「毎日どうしたら飲酒癖が止められるか考え続けたが、止められなかった」と69歳になる元博物館芸術員は言う。 「シロサイビンを飲むと時に恐怖を感じるが、だんだん光が見えて来た。神秘的な色模様、幻想的動物が現れ、死んだ父とも出会い、豪華なショーを見ている感じだった。宝石が散りばめられ、トンネルを行くと神のような物体が自分を見ていた」と彼女は言う。 セッションでは二人のセラピストが傍に座り、ソファーに横になり、アイマスクをかけ、静かな音楽がヘッドフォンから聞こえてくる。 彼女の二回目のセッションは、飲酒の原因になった精神的苦しみを受けた家族との会話であった。爽快とは程遠いものであるが、最後には彼らと仲直りして別れた。 「重要なのは相手を許し、理解し、愛することです。私はもう感情に振り回されない。しっかりと地面に立ちます」と彼女は続ける。 最後のセッションが終わってから3年経つが、現在はほとんど飲まない。「もう、自分を監視することはないです。アルコールを考えることがなくなりました」と彼女は言う。 専門家もシロサイビンがなぜ心の問題に有効か説明できない。幻覚物質が脳神経の柔軟性を取り戻し、新しい回路の作成を促し、患者に問題に対する取り組み方を示すのではと言う。 ジョーンズホプキンス大学大学のマシュー・ジョンソンは、これまでの同種のテストでは参加者が10人と少なく、それに比べて今回の試験は規模が大きかった事を評価すると言う。ジョンソン自身は国から資金援助されたシロサイビンによる禁煙の研究をしている。 現行の依存症治療では、依存物質の渇望、離脱症状の緩和、報酬回路受容体への働きかけに重点を置いているが、幻覚物質ではそれが心理に影響を与えるのが大変興味のあるところだと彼は言う。 「最近、幻覚物質は依存症全般を治すのではの希望が広がっている。これは現在の医学では理解し難い」と彼は言う。 次回のテストでは参加者の数を更に200人に増やし、シロサイビンの処方は一回のみで、偽薬としてはビタミンBを使うとボジェンシュツは言う。アメリカ食品医薬品局もこの試験を許可し、心の問題の打開がなるか注目が集まっている。 脳科学ニュース・インデックスへ |