薬物依存医学アメリカンソサイエティによると、アメリカでは数百万の人が薬物依存に苦しみ数万人が毎年死んでいる。治療する産業も花盛りであるが、一体薬物依存の原因は何なのか、如何したら治せるかと言うと、殆ど分かっていない。最近の研究によると、人類の過去に取り込んだ細菌に原因があるらしい。
オックスフォード大学等が加わった研究では、一部の人の遺伝子に存在する古いレトロウイルスが薬物依存の原因らしい。発表では、注射器を使う薬物中毒患者にHK2と呼ばれるレトロウイルスが高率で発見されたため、
レトロウイルスが薬物中毒にさせる原因ではないかと言う。しかし、現状ではどのようなメカニズムで薬物中毒になるかは分かっていない。
人間の体内にあるレトロウイルスは大昔のレトロウイルスのDNAで、遺伝子コードとして現在まで受け渡されて来た。殆どは何もしないジャンクDNAに分類されるが、その一部が自己免疫疾患やある種の癌に関係していると言う報告もある。しかし、内在性レトロウイルスと病気との関係は公式には確立されていない。
HK2と呼ばれるレトロウイルスは、人口の僅か5%から10%位しか存在しないのに、薬物依存症の患者にはより多く存在するのに注目している。HK2レトロウイルスの遺伝子は脳のドーパミンレベルに関係している。
ドーパミンが放出されると我々は喜びを感じるが、薬物により多くの分泌を求めると依存症になる。
研究では、注射器を使って薬物を摂取するギリシャとスコットランドの2つのグループを調べた。両グループは共に病気に感染していて、ギリシャのグループではHIVに、スコットランドのグループではC型肝炎に感染していた。研究では彼等にHK2レトロウイルスの統合がどれ程見られるかを調べた。同時に同じ病気に感染しているが薬物依存でない人々のHK2レトロウイルスの統合も調べた。
この結果、薬物依存者はそうでない人達に比べて2倍から3倍HK2統合が見られ、HK2統合と依存症の関連はかなり濃いと研究者は言う。ギリシャとスコットランドと言う離れた国で同じ結果が出たことが重要と論文を書いた研究者は語る。
論文では、次に、HK2がどのようなメカニズムでドーパミンに影響を及ぼしているのか、レトロウイルスのDNAがどのように薬物依存を起こすのか研究したいとしている。分子レベルでドーパミン分泌を促進する様子はネズミの実験で確認されている。しかし人間では動物のような実験は出来ないので、fMRIのような機器で可能になるだろうとしている。
「内在するレトロウイルスが病気の原因になる証明は今まで不足していた。しかし今回の研究で、薬物依存症にはレトロウイルスが影響している事が分かり、患者の汚名を削ぐことになるだろうし、治療にも道が開ける」と科学者は言う。
「依存症が体に原因があると分かって、果たして彼等の不名誉を回復できるであろうか。社会的要因、政治的要因も考慮に入れないといけない。原因がレトロウイルスと分かれば、より効果的な治療が期待できるのが大きい」と感染病研究所の所長であるサミュエル・フリードマンは言う。
「依存症をどう考えるか私自身も良く分かっていない。現在の考え方は危険であるが、依存症の遺伝的側面を理解すれば改善すると言うものでもない。ことは複雑なのだ」とフリードマンは続ける。
脳科学ニュース・インデックスへ