安心していますか
それはコ−ドピュータメンが
働いているからです


マイケル・ローガンとノーベル賞受賞者のエリック・カンデルは今まで分っていなかった「安全回路」と言うものを脳の深部に発見した。この回路は我々の安全と安心に密接に関わっている。この論文は4月21日号のニューロン誌に掲載された。

「今回発見された回路は、今まで分っている恐怖の回路に次ぐ重要な発見で、多分神経症患者ではこの回路が正常に作動していないのでしょう。この研究を進めると、我々の安全安心感覚に訴える新治療法が発見されるかも知れない」とコロンビア大学医療センター神経生物学と行動学のマイケル・ローガンは言う。

また、この新しい回路は薬物依存症に関わる脳の部位とも一致するから、薬物依存の治療とも密接に結びつく。「アルコールとか薬物は我々に一時的に絶対安心感を起こします。よく『最初にアルコールを飲んだ時に、今まで感じた事が無い安心感を得た』とアル中患者言いますが、アルコール及び麻薬が人工的にこの安全メカニズムを活性化させるからでしょう」とローガンは言う

恐怖のみが強調された神経症
今までは、神経症の研究と言えば脳の恐怖回路に焦点を当てていた為、「神経症者が、あまりの恐怖に耐えかねて精神科医を訪れると、医師は患者の幸福感には注意を払わなかった」とローガンは言う。しかし、幸福感は神経症に於いて恐怖に劣らず重要だ。「我々の神経症研究に欠けていたのはこの安全が保証された時の満足感に関する研究であろう。しかし、ネズミの恐怖の測定は出来るが、安全感、安心感があるかどうかをどう測定するのは難しい」とローガンは続ける。

ニューロン誌に掲載された実験は、まさにこの安心感の測定であった。ローガンはネズミを訓練させて、ネズミがある一定の音を聞いた時には、電流のショックが無いと安心するように訓練させた。そして、この安心させる音を聞く前と後のネズミの脳の変化を記録した。予想通り今までの理論と矛盾せず、安全を知らせる音は脳の恐怖回路を通過し、恐怖を感じる部位である扁桃体の活動を緩和させた。

しかし、この実験は新しい事実を発見した。この音は今まで発見されていない新しい回路を通過し、脳のコ−ドピュータメン(Caudoputamen)と呼ばれる部位に達していたのだ。コ−ドピュータメンは動機と報酬に関係している脳で、この部分が活性化していた。

「我々の実験結果は、単に危険が存在しないと言うだけでなく、安全を保障された時の特別の安心感をつかさどる脳がある事を証明している。即ち、逃げ込む場所があるかないかを感覚する脳である。逃げ込む場所を発見すればそれは十分幸福を約束するもので、危険の有無とは関係無く、別個の脳の反応と判断する」とローガンは言う。

次は、このネズミに発見された新しい回路が人間にも存在するかどうかである。被験者に血を凍らせるような人の叫び声を聞いてもらい、その後に安心を知らせる音を聞いたときの人のCaudoputamenがどのように反応するかを調べるわけだ。

この研究論文を書いたエリック・カンデルはコロンビア大学の神経生物学及び行動学センターで大学教授とカビル研究所の教授をしている。同時にハワード・ヒューズ医学研究所の上級研究員でもある。



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