強迫行為に関するインターネットディスカッション
1997年11月12日

司会者:今日のテーマはOCD(強迫行為)です。今日のゲストはDr.サンジャヤ・サクセナ氏でカリフォルニア大学の強迫行為研究プログラムの主任でいらっしゃいます。彼は精神科医でありカリフォルニア大学の精神医学の教授でもあります。今晩は、サクセナ先生ようこそこのインターネットカウンセリングにおこし下さいました。始めにこのカリフォルニア大学強迫行為研究プログラムとは何であるかと、どうしてこれがアメリカの最も重要なプログラムであるのかをお話できますか。

サクセナ:こんばんは、今日はインターネットカウンセリングにおよび頂き有り難うございました。カリフォルニア大学強迫行為研究プログラムは強迫行為とその関連症状を研究、治療を目的としたプログラムでございます。ここでは薬の処方と認知行動療法を実施しています。更に強迫行為と抑鬱の幾つかの研究も行っています。

司会者:ここには色々の症状を持つ方々がいらっしゃいますので先ず、強迫行為とは何であるかから始めて頂けますか。

サクセナ:強迫行為は今や500万人のアメリカ人が悩んでいる症状です。強迫行為とは観念であり衝動であり恐怖でありますがそれらが絶えず付きまとい日常生活に重大な障害をもたらすものです。あるいは将来起こるかも知れない恐怖から逃れるためにあるいはそうする事によって不安が幾分か癒されるためにする強迫的繰り返し行為です。強迫観念は現実生活の心配のみでなく非現実的で極端な恐れであります。例をあげれば不潔を恐れるあまり20回手を洗うとか火とかドアーの鍵とかを繰り返しチェックして心配することですね。

司会者: その症状の原因は既に分かり始めたのですか。

サクセナ: 真の原因は未だ分かっておりません。でも最近はより研究が進み如何に脳がそれに絡んでいるかが分かり始めています。遺伝が重要な役目をしている事は間違いがありません。しかしそれ以外にも考えられ、免疫反応も考えられています。

司会者: そこで現在ではどんな療法が一番効果があると考えられていますか。

サクセナ: 現在では2つのやり方が最も効果的と考えられていまして、(1)化学療法:セロトニンに効く薬物(2)認知行動療法:これは患者の行為を修正するやり方です。従来の認知行動療法を含まない療法では強迫行為は治療出来ません。

司会者: どんな薬が最も有効なのですか。どういう症状の時に薬を処方するのですか。

サクセナ: 強迫行為に有効と認められている薬物は現在5種類です。プロザック、ラボックス、パクシル、ゾロフト、アナフラニルです。これらは皆脳内でセロトニンの再吸収を阻害する薬剤です。化学療法は中程度から重度の強迫行為の患者に適用されて認知行動療法で上手く行かない時に有効です。

司会者: 強迫行為は完全に治るものでしょうか、それとも一生それと共に生活しなければいけないものでしょうか。

サクセナ: 現在の時点で強迫行為を治す方法はありません。これは慢性病で一生持って生活しなければならないでしょう。しかしながら薬と認知行動療法でかなりの改善が期待出来ます。この2者療法で患者の生活を70ー80%改善出来ます。

患者: 私は多人格症状と強迫行為を持っていまして過去2年間これらの症状を改善するために努力してきました。私の15歳の娘が私は未だ十分良くなっていないと言うのですが、どうやって彼女に私が良くなっていると納得させられるでしょうか。

サクセナ: 一度医者の所に彼女と一緒に行った方が良いですね。そして彼女に質問をさせるのです。そうすれば彼女は医者から直接専門家の病気の予後について聞けるので納得できるでしょう。

患者家族: 私の妹は強迫行為ですが医者に連れて行けません。

サクセナ: これは大変よく起こる問題です。貴方だけでありません。妹さんに何か強迫行為に関する本を与えたらどうでしょうか。そうすれば今彼女が悩んでいるのは強迫観念であると認めるかも知れません。次には何故彼女が医者に行きたくないか考える必要があります。医療が恐いのかあるいは人が彼女を狂っていると思うのがいやなのかを聞いたら良いです。ここにいる人たち、私を含めて皆いやなのです。人に知られたくない病気なのです。

患者: 私は軽度の強迫行為ですが強迫観念を持つ人と仕事をしていますが、強迫行為は人に移りますか。

サクセナ: 強迫行為は決して人に移る病気ではありませんが強迫行為の患者はよく新しい強迫的衝動や恐怖を他の人達からあるいはニュースからあるいは本から得ています。例えばテレビを見てその番組でウイルスを取り上げているとするとそれからウイルス恐怖が発生します。それ以来何とかその恐怖から逃れる為に色々の繰り返し行為を行います。ですから患者は一生を通してその経験からあるいは自分の読んだ事から新しい強迫行為を作り上げます。

患者: 私はトレット(チックに似た意識しないで起こる発声、筋肉痙攣)と強迫行為を持つものですが、この場合強迫行為は更に治り難くなりますか。

サクセナ: そうです。トレットを持っていると薬の処方が難しくなります。複数の薬を必要としますが行動療法にはよく適応します。

患者: どれほどよくなりますか。100%とは行かないと思いますが。

サクセナ: 殆どいきません。でも100%回復とは行かなくても薬と行動療法で回復すると生活上大きな向上が認められるのです。

患者: 不潔恐怖の人が行動療法をする時どれほど強く慣れる練習をしなければいけないのですか。例えば便器に手を突っ込む様な事までしなければならないのですか。

サクセナ: それは言い質問です。確かに行動療法は不潔恐怖の人に慣れる練習を要求しますが必ずしも現実的に危険なあるいは感染する可能性がある事をする必要はありません。

患者: 何故、従来のただ話すだけの療法が強迫行為に有効で無いか説明して頂けませんか。

サクセナ: 従来のやり方ですと患者にその行為を止めさせたり恐怖に立ち向かわせたりそういう事を要求しないのです。そして今まで原則的に精神分析の理論で進めていたのですが、それらのやり方は強迫行為に関しては間違っていると証明されました。そのやり方では強迫行為を上手く説明できません。

患者家族: 私は7歳半の子どもを持つものですがこの子が強迫行為では無いかと心配なのですが、普通の小児性不安と強迫行為とは具体的にどう違うのですか。

サクセナ: それは重要な質問です。強迫行為は普通の不安とは違って行為を伴い次第に過剰になり生活そのものを不自由にします。例えば普通の子も親が事故に巻き込まれるのでは無いかと不安に思うものですが、強迫行為の場合は不安を取り去るために繰り返し行為を始めいくら安心させてもその不安を取り去る事が出来ません。不安を取り去るために1日20回も親に電話をする場合もあります。

患者家族: 何歳頃から行動療法を開始するのが理想でしょうか。私の子どもは6歳で数年間強迫行為を患っていまして現在は薬が効いているようです。

サクセナ: 6ー8歳の子どもでも行動療法は有効です。特に子供の治療に優れている先生に見てもらうのは良いでしょう。行動療法で薬の量も減らせますし場合によっては使う必要も無くなるでしょう。

患者家族: 6才と言うのは若すぎると思うのですが強迫行為で最も若い場合は幾つくらいでしょうか。

サクセナ: 2ー3歳の時に最初の症状が見られたと言う報告があります。しかしそんなに小さいとよく分かりませんので十分それが強迫行為なのか見る必要があります。

患者家族: 私の甥は強迫行為です。でもこの話をすると彼は笑いながら強迫行為はかっこいいものだと言うのですが、これは普通ですか。

サクセナ: まあ、それが彼のやり方なのでしょう。防御反応です。強迫行為の人たちの中に強迫行為を時々楽しんでいると言う考えもあります。大事なのは強迫行為がその人の生活に重大な支障を来たしているかどうかです。

患者: 私は今イタリアから話していますが、24歳で15年間境界例神経症と強迫行為で悩んでいます。特に強迫行為が強くこれは人生の時々において変化していまして思春期から現在までは主に体を1日中洗わないと気が済まない強迫行為に悩んでいます。でも問題はこの15年の経過の後、急に変化してきて悪くなりはじめたのです。

サクセナ: 貴方はかかりつけの医者にその変化を話すべきですね。これは大事なのですがどういう治療方法を今貴方が受けているかです。手洗い強迫行為で大事なのは患者が手洗い強迫行為を止めるための行動療法、薬を受けているかです。

患者: 女性にとって強迫行為が子供に移す可能性はどれほどなのでしょうか。

サクセナ: 10ー20%の確立で子供に強迫行為が発生すると言われています。

司会者: それは遺伝子によるものですか。

サクセナ: 遺伝の要素は確かにあります。ある家族においては遺伝しております。強迫行為のある種のものはトレット症候群と関係があります。

患者: 私はクリスチャンで几帳面強迫観念で悩んでいます。もし何かをしたら、あるいはしなければ地獄に行くのでは無いかと苦しみます。私のやる事は罪深い事は分かるのですが、不安が強すぎて、何か言いアドバイスはありますか。

サクセナ: この強迫観念は何か自分が罪を犯すのではないか、あるいはその結果として罰せられるのでは無いかと恐れるものです。宗教的強迫観念は強迫行為のなかでよく見られるものです。この症状は薬と行動療法によく反応しますので安心して下さい。

患者: 注意不全症(ADD)は強迫行為とよく間違えられるのでしょうか。

サクセナ: はい、確かに強迫行為の患者はやるべき仕事に集中出来ないためにADDと間違えられます。でもADDの人たちは強迫行為の人の様な不安とか衝動がありません。しかし両方を持っている人は別です。

患者: どういう時に薬を変えたら良いか教えていただけませんか。私は現在ラボックスを飲んでいるのですが最近効かないのです。

サクセナ: 強迫行為の薬に対して抵抗性を強める事は滅多にありません。貴方の医者に言って十分な量のラボックスを飲んでいるか聞いたら良いです。時々量を増やして効力を保つ事ができます。もし最大量の1回300ー400mgのラボックスを3ヶ月試してなお効果が見られない場合は薬を変えるか、もう一種類の薬を加えるかです。

患者: 行動療法とは具体的にどういう風にするのですか。

サクセナ: 強迫行為を止めた時に起こる不安や恐怖に如何に耐えられるかを学ぶ技術です。これを繰り返し行うと患者は衝動行為を止める事が出来ますし、強迫観念を減らせます。強迫行為に特に行われる行動療法は「暴露と反応停止」と呼ばれています。

患者: 強迫行為の人は食餌のカロリーを計算するのは良くある事ですか。

サクセナ: 聞いた事ありませんが有り得ますね。人が強迫行為であると見とめられるにはその行為が強迫観念の不安、衝動から逃れる為と認識される必要があります。

司会者: 私は思うのですが強迫行為の人はその人生で強迫行為が繰り返し再発するのではと思うのですが、これは本当ですか。もしそうだとしたらどうしてこれを防ぐ事ができますか、あるいはもし起きてしまったらどうしたら良いでしょうか。

サクセナ: 強迫行為は良くなったり悪くなったりする病気です。そして患者が強いストレスの下にある時多くは悪化します。再発を防ぐには行動療法と薬を止めない事です。

患者家族: 子供の強迫行為についてお伺いしたいのですが、子供にはどの療法が良いでしょうか。自閉症の子供は強迫行為も頻繁に認められるでしょうか。

サクセナ: 子供も大人と同じように行動療法と薬です。ただ行動療法は子供用に少し手を加えています。子供の自閉症は強迫行為と似た行動をしますが強迫行為の様な不安を持たないことです。しかし両者が共存する可能性はあります。

患者: 強迫行為が仕事に与える影響を誰か今までに調査をしていますか。

サクセナ
: 仕事における強迫行為の影響度の調査を今まで見ていませんが、今までに分かっているのは強迫行為の人が仕事をどれほど上手く実行出来るかです。結果は強迫行為の人は仕事を止める事が多いと言う事実と、仕事を得るのが最初から難しい事です。結果として治療が行われない場合は強迫行為の人は障害者になってしまいます。しかし仕事能力を高めるための療法が発見されています。

患者: どれほどの頻度で強迫行為と鬱が同時に現れますか。

サクセナ: 貴方の思うとおり大変多いです。80ー90%の強迫行為の人が人生の一時期に鬱を経験しています。3分の1人たちが医者の所に来る時に既に鬱です。ですから強迫行為には抗鬱剤を処方します。しかし鬱は強迫行為に比べて二次的です。

患者: 私は重症の強迫行為です。良い医者を見つけるのに5年かかりました。最初はゾロフトを飲みそれにクロメパンを加えまして1年ほど治療していますが最近5ヶ月は効き目が無くなって来ています。私の病気の診断は誇大思考と妄想ですが今の治療方法で良いのでしょうか。どうしたら暴露療法が得られる様になるでしょうか。

サクセナ: 誇大思考とは患者が自分の強迫観念が真実と思う場合です。殆どの強迫行為の患者はその行為、観念は間違っていると思っているのです。しかし15%の患者はそうは思いません。強迫行為で誇大思考のあるひとはSSRIと抗精神薬であるリスペリドンとかピモザイドとの併用で治療します。

患者: 強迫行為と拒食症は関係がありますか。

サクセナ: 拒食症の患者においては強迫行為が多く認められていまして20%ほどが症状を持っているでしょう。拒食症では食事の用意のときとか食べる事そのものに強迫観念があります。それに比べて拒食と過食を繰り返すブリミアでは強迫行為は認められません。しかしながら彼らは他の衝動僻を持ち例えば毛を抜く、衝動買い、万引きです。毛を抜く行為は自己虐待の様な一種の心の開放感が得られるのかもしれません。自己虐待はそうする事によってある種の安心感がえられるのですが、決して強迫行為の様に迫り来る不安を振り払う為にしているのでは無いのでそこが強迫行為と違う所です。

患者: 私は精神療法と薬を考えているのですが、聞く所によると良いものを得るのに長い試行錯誤が必要だとの事ですが、良い医者と薬を見つけるのに良い方法はありませんでしょうか。

サクセナ: 薬の選択には残念ながら時間がかかります。なぜなら各薬が実際効果を現すまでに約3ヶ月かかるからです。行動療法を始める前に貴方の先生が強迫行為専門の行動療法に熟達しているか見極める必要があります。行動療法をしているという精神科医は沢山いますが強迫行為に慣れている医者は少ないです。もし強迫行為専門の精神科医を探しているのでしたらOCD財団に連絡して下さい。UCLA治療プログラムでも扱っていまして、ここでは積極的にプログラムに参加する人も求めています。今行っている研究は鬱と強迫行為の患者の脳画像を調べる事です。参加者は薬で治療もされます。

司会者: 参加者は入院と言う形になりますか。

サクセナ: 入院と言うのは重度の人で彼らは症状がひどく自分で行動できません。このケースでは大抵強迫行為だけでなく他の病気例えば強い鬱とか分裂病を併発しています。

司会者: 遅くなって来ました。サクセナ先生、今晩はどうも有り難うございました。

サクセナ: どういたしまして、楽しませて頂きました。司会者および聴視者、有り難うございました。



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