分裂病に関係する2つの遺伝子発見

2002年7月4日

 今までに多くの分裂病の原因に関する研究が行われて来たが今1つその核心が見えなかったが、今回の発表により分裂病を発生させるであろう遺伝子の発見が具体性を帯びてきた。分裂病とは破壊的な心の病であり200万人のアメリカ人が発病している。原因遺伝子の発見が分裂病の基本メカニズムの解明を導き、新しい治療法への手掛かりになるのではと期待されている。

研究は家族に数人の分裂病患者を持つアイルランド人270家族を対象にコモンウェルス大学(リッチモンド)と2つのアイルランド研究施設により行われた。発表では分裂病を起こさせるであろう遺伝子を発見したと述べている。発見された遺伝子はディスビンディンと呼ばれ23組ある人間染色体の6番目に存在する。

又、別の研究ではデコードジェネティックスと言う名のアイスランドの会社が人染色体の8番目にあるニューレグリンー1と呼ばれる遺伝子が分裂病を起こすであろうと発表した。この遺伝子の変異が分裂病と特に関わりがあり、15%のアイスランドの分裂病患者がこの変異遺伝子を持っていた。

この2つの研究報告は間もなくThe American Journal of Human Genetics に発表される予定である。

遺伝子の専門家は分裂病を複数の遺伝子変異体が競合して起きる複雑な病気と見ている。

単一遺伝子で起きる病気の遺伝子同定は科学の発達で比較的容易になったが、遺伝子群が絡み合う病気の遺伝子発見は困難を伴う。所が一般的に見られる病気の多くは遺伝子群により発病するもので例えば癌、パーキンソン病、糖尿病、卒中等がそうである。

これらの複雑な病気の遺伝子は殆ど発見されておらず、もし今回の2つの遺伝子が正しいとすれば、その種の発見では最初になる。

コモンウェルス大学とデコードの両研究チームは遺伝子の一部であるマーカーと呼ばれる部分に注目して研究をしている。統計的手法を取り分裂病を発病した患者が発病していない他の家族に比べてどのマーカーを受け継いでいるか調べている。マーカーとは遺伝子の一里塚のようなもので、位置を特定できるので分裂病を起こす変異がどの部分にあるか特定できる。

病気を起こす遺伝子が潜んでいる部分を専門家はロシと呼ぶが、かなり大きく沢山の遺伝子を含んでいて、しかもどの遺伝子も分裂病を起こす可能性があるので場所の特定は難しく、その中から原因遺伝子を探すのは更に難しい。

過去数年間に分裂病を発生させる遺伝子発見の報があったが、多くは説得性に欠けた。理由は統計的に充分納得できるデータを出すには多くの患者を分析する必要があり費用がかかる為であった。しかも発見の中には再現が出来ないものも含まれていた。

しかし人間ゲノム解析完成により、一般的遺伝子変異情報も得られて、ロシと呼ばれる疑わしい領域を研究者が再び研究し始め今回の発表に漕ぎ着けたものである。

「分裂病を起こす遺伝子が存在する部分は限られていて、原因遺伝子はこの限られた領域にある」とペンシルバニア大学の分裂病研究専門家であるダグラス・レビンソン氏は言う。

発見された遺伝子は脳内の神経細胞で働いている為、分裂病発生に重要な関わりがあると思われる。リッチモンド研究チームが発見したディスビンディンと呼ばれる遺伝子はシナップスで活動している。シナップスとは神経細胞同士が電気的に連絡をし合う狭い空間を言う。

アイルランドの分裂病患者の認定はバージニア・コモンウェルス大学のケネス・ケンドラー氏とアイルランド医師であるアンソニー・オニール氏、ダーモット・ウォルシュ氏により行われた。研究は1983年に開始されアイルランド、北アイルランドの精神病院を回って行われた。ただしベルファストの中心部は戦争状態であったので除外された。ケンドラー氏の前の研究チーム同僚であるリチャード・ストローブ氏(現在National Institute of Mental Healthに勤務)が遺伝子の分析をした。

ストローブ氏はディスビンディンと呼ばれる遺伝子に分裂病患者特有の遺伝子変異があるのを発見した。奇妙な事にこの変異はイントロンと呼ばれるタンパク質合成に必要な情報を含まないジャンクDNAの中に存在した。氏はまだこのイントロンの変異が分裂病発生に関係があるかどうかは確かでないとし、ジャンクDNAでないエクソンと呼ばれるDNAも更に詳しく調べる予定であると言う。

「間もなく今度の研究結果が誤りか本物かわかるでしょう」とケンドラー氏は言う。

アイスランドチームが発見した遺伝子は更にはっきりしない。今の所、特許申請書に記載されている以外は分かっていない。レイキャビックにあるデコード社の社長であるカリ・ステファンソン氏によるとリッチモンドチームが発見したディスビンディンはニューレグリンー1と言う物質を捕まえる受容体に作用するのではと言っている。ニューレグリンー1とはアイスランドの分裂病患者で発見された遺伝子が生産する物質である

「つま先で立って全体を見るとこの2つの遺伝子は1つの作業を分担してやっているに過ぎないでしょう。」とステファンソン氏は言う。両遺伝子共にシナプス内の神経伝達に関わっていて、どちらの変異も神経回路を混乱させる可能性を指摘している。

「アイスランド人はアイルランド人同様ケルト人を一部先祖に持つが、ディスビンディン遺伝子と分裂病を関連させるものは無かった。しかしそれが大きな意味があるわけでは無い。何故なら我々の手法ははっきり認められる部分の位置を特定しているのであり、弱い部分はそのままにしている」とステファンソン氏は言う。

The American Journal 誌の編集者であるスティーブン・ウォッレン氏は「次ぎのステップは他の研究者がこの研究結果を再確認することである。次第に具体的遺伝子に迫って来ているように見えるのがうれしい」と言う。

分裂病は家族遺伝傾向があるから遺伝子が関与しているのは明らかだ。しかし遺伝子だけでは説明がつかない。例えば一卵性双生児では片方が分裂病を発病してももう一方が発病する割合は30−50%である。だから遺伝子が原因であるにせよ、環境も影響するのは間違い無さそうである。



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