何故自己嫌悪が起きるか

2011年10月4日

愛と憎しみは同じ脳の回路が扱っているのが今まで分かっている。それなら愛と憎しみをはっきり分ける線がありそうなはずであるが、実際はこの回路がむしろ鬱状態の人では弱体化しているのが分かって来た。

憎悪を感じる脳の連結が弱まっているなら憎悪は鎮静するはずであるが、この回路の弱体化が愛の感覚を鈍らせ、自己憐憫を起こし、鬱状態特有の自己嫌悪の原因になっていると今回の研究は報告している。

研究では、未治療の鬱病患者15人と、薬物の効果が現われなかった鬱病患者24人、そして健康な人37人を集めてMRIスキャンを使ってその脳を調べた。健康な人については鬱病患者の年齢、性別、教育程度にあわせた人を選んでいる。

研究の結果、鬱病患者では左側の上下の眼窩前頭皮質間の連結が健康な人に比べて弱かったのに対して、右側の眼窩前頭皮質間では逆に連結が強かった。従来から右の眼窩前頭皮質がより罰を感じるのに対して、左の眼窩前頭皮質は報酬に反応するとしている。今回の研究はこれを見事に裏付けていて、鬱状態の人では喜びが消え特に人からの拒否に痛みを感じていた。

またミラー細胞が存在していると思われる脳の回路も弱かった。ミラー細胞は他人が動く姿を見ると活性化する性質がある。例えば、誰かが微笑んでいるのを見ると、ミラー細胞は活性化し笑う準備をする命令を伝え始める。

ミラー細胞は他人が何を考えているか理解するのを助けると考えられている。この細胞が活発化していれば、他人をもっと現実的に見るであろうし、人との親密さも違ってくる。この細胞の活動が弱まれば、自分が孤立していると考え勝ちになるであろう。それ以外にも鬱状態の脳では不愉快な経験に反応する脳が活発化していた。

しかし何故この脳回路の弱体化が自己嫌悪につながるのか、他人に対する嫌悪に発展しないのかについては研究者は次のように答えている。
「愛と憎悪の回路が弱体化しているため、自分が社交場面で浮き上がってしまい、どう収拾するか混乱して、その結果自己嫌悪になっているのではないか。自分に対する嫌悪感が暴走すると引きこもりにもなる」

鬱状態は怒りが自分に向けられた状態と説明すると、フロイトの考えに似てくる。今回の研究で鬱状態の脳の理解が深まり、鬱病治療の更なる発展に期待がかかる。



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