1990年代の神経伝達物質セロトニン

序説  

セロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン、5−HT)は広く生物界に分布していて動物、植物、脊椎動物、果物、豆、毒液等に発見されてます。セロトニンに似た化合物も自然界に存在します。これらは中央神経系と周辺の機能に関わっていると考えられています。その中でも過去数年焦点が当てられているのはセロトニン類似化合物が示す精神異常作用です。その物質とはN,Nジメチルトリプタミン、5-ヒドロキシーN,Nジメチルトリプタミン(ブフォテリン)そして4−フォシフォリルオキシーN,Nジメチルートリプタミン(シロシビン)である。

                        
                 
                             
その他のこの論文に出てくる薬物の化学構造式は
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セロトニンは食べ物摂取から得られるが同時に体内の各所で酵素によりトリプトファンから合成される。酵素とはトリプトファンヒドロキシラーゼと芳香属L−アミノ酸デカルボキシラーゼである。食物からと体内で合成されたセロトニンは速やかに新陳代謝されモノアミンオキシダーゼとアルデヒドデヒドロゲナーゼに拠り不活性化され新陳代謝産物である5−ヒドロキシインドール酢酸に変化する。

神経伝達物質の中でもセロトニンは最も各種の症状と関連があるものと考えられ治療方法の中に組み入れられている。症状の中でも特に中央神経系に関するものが重要でその中には不安、抑鬱、強迫行為、分裂病、発作、肥満、痛み、高血圧、血管障害、偏頭痛、吐き気がある。これらの症状に関わるセロトニンの役割のなかでも特に最近はセロトニン受容体の亜タイプに対するセロトニンの生理学的役割である。本概説はセロトニンの生理学的機能とセロトニンに近い物質とセロトニンに拮抗する物質の機能を説明します。それとセロトニン関連の薬の可能性を検討します。

セロトニンは1948年ページ博士とそのグループが最初に血液から取り出し後に中央神経系で存在を確認してます。他の神経伝達物質と同じようにセロトニンは比較的簡単な化学的構造式を持っており、しかも複雑な薬理作用を示します。セロトニンの構造がノルピネフィリンやドーパミンに似ている事からカテコールアミンと同じ様に神経の中枢部と抹消部の両方に各種の薬理作用があるのは理解できる。セロトニンは人間の体内では3つの部位に存在する。腸管壁(消化管の自動性を増す)、血管(大動脈を収縮させる)そして 中央神経系です。

この中でも最も研究されているのはセロトニンの 中央神経系に対する薬理作用です。セロトニンの役割は多岐におよび食欲、睡眠、記憶、学習、体温コントロール、気分、振る舞い(性的あるいは幻覚的行動)、心臓血管機能、筋肉収縮、内分泌調節、抑鬱等。抹消部分に対するセロトニンの役割には血小板のホメオタシス、胃腸管の自動作用、癌性腫瘍の分泌に重要に関わっていると見られています。一般の大人が僅か10mgのセロトニンを持つ事を考えるとセロトニンが如何に広い役割を薬理学的にあるいは生理学的に持っているかが分かる。セロトニン意外にこれほど広範な薬理作用を持つ生理学物質は他に無いとページ自身が述べている。

神経伝達物質は相手となる受容体と反応してはじめて色々の効果を現す。他の神経伝達物質と同様にセロトニンも脳の神経細胞で合成され細胞内の小嚢に貯められる。神経の刺激によりセロトニンはシナプス(神経細胞と神経細胞の間の空間)中に放出され反対側の各種神経細胞受容体と反応する。

セロトニンの活動は次の3つの主なメカニズムで終了する。それは拡散、新陳代謝、特殊なアミン膜の移動システムによる再吸収です。これらのセロトニンの動きは次の図で示します。セロトニンの活動は理論的に次の6つの段階で調節できる。1)体内合成の段階でそれを促進するかあるいは妨害する物質を使う。2)貯蔵を妨害する物質を使う。3)セロトニンの放出を促進したりあるいは妨害する。4)セロトニンに似た物質を使って受容体を活性化したり妨害する。5)もとの神経細胞に戻るのを妨害する。6)セロトニンの新陳代謝に影響を与える。

            
  
あらゆる神経伝達物質の中でもセロトニンが最も複雑多岐に渡る受容体との反応を示す。1957年にガダム博士がセロトニンが二つの異なった受容体と反応する事が各々違った組織で発見した。1つは平滑筋であり他は神経組織である。ジベンジリンが平滑筋に選択的に拮抗し、モルフィンが神経組織に選択的に拮抗するのでこれらの受容体を各々D受容体、M受容体と名づけた。それ以来、また特に過去10年の間にセロトニン受容体については画期的な確認が相次いだ。現在までにセロトニンの受容体には4つのグループが確認されている。セロトニン受容体1、セロトニン受容体2、セロトニン受容体3、セロトニン受容体4である。最近のクローン研究により更に5,6,7の亜タイプ群が発見されている。話は更に難しくなるがセロトニン受容体2の亜タイプが5つ確認されセロトニン受容体3の亜タイプが3つ存在している。

これらの亜タイプの生理学的機能はまだ明らかになっていない。現在真剣に研究が続けられている。受容体3以外の殆どの亜タイプ受容体は全てG蛋白受容体グループに属します。各々の受容体に作用する物質あるいは拮抗する物質の作成は新しい薬に大いに結びつく可能性があります。最近の最も関心事は中央神経系の受容体に対するセロトニンのコントロールです。次に示すのは我々が今まで分かっているセロトニン受容体の研究成果です。

セロトニン受容体1型

このタイプの受容体は平滑筋の弛緩に関係していると思われその他には心臓あるいは管状平滑筋の収縮、神経伝達物質分泌の抑制、 中央神経系に対する作用が考えられる。今までに5種類の亜種が確認されその内の4つが人間で大きな役割をしていると思われる。

1A型
このタイプは多分最も研究された亜種です。 中央神経系に主に発見されこの受容体に作用する物質はねずみではオスの性行動を促進し、低血圧、食欲促進、低体温、不安抑制をもたらす。また抑鬱に最も関係がありと見られている。

1B型
この型は自動受容体として働く。刺激をすると神経伝達物質の放出を妨げる。この受容体に作用する物質はげっ歯類では挑発的行動を抑制し食欲を落す。この受容体はげっ歯類のみに存在して人間には無いので理論的興味の対象でしかないが、多分他の動物の1D型に相応するものと考えられている。

1C型
この受容体は2型の亜種と同じなので最近2C型と名前を変えた。Choroid Plexusに高い濃度で発見され脳脊髄液の生産をコントロールして脳の循環に関係していると思われる。鎮痛、睡眠、心臓血管の機能に関係しているらしい。

1D型
中央神経系に主に存在しシナプス前異型受容体あるいは最終自動受容体として存在して神経伝達物質の発射にマイナスのフィードバックをして神経伝達物質の発射を抑制すると考えられている。この受容体は 中央神経系では1型の中でももっとも多く見られるもので管状平滑筋の中にも発見され収縮に関係していると思われる。この受容体の役割は余り分かっていないが、この作用薬は偏頭痛の治療に効果的である。この受容体を選択的に妨害する物資で研究を進めれば更に 中央神経系における役割がわかるであろう。

セロトニン受容体2型

管状平滑筋、血小板、肺、 中央神経系、消化管に主に存在していて消化管や管状平滑筋の収縮、血小板の凝縮、高血圧、偏頭痛、ニューロン消極に関わっていると見られている。拮抗物質は坑精神薬として使える可能性がある。この受容体2型は前の1C型と同じグループに属していて1C型は最近2A型と名前を変更した。

セロトニン受容体3型

中央と末端のニューロンに存在して末端ニューロンの消極作用、痛み、嘔吐反射作用に関わっているらしい。この受容体に作用する薬物には偏頭痛、不安、認知異常、精神異常の治療へ可能性がある。

セロトニン受容体4型

この受容体は 中央神経系、心臓、消化管に見られる。この受容体の活動はサイクリックアデノシンモノ燐酸(AMP)を増加させ、神経伝達物質の分泌を促進すると考えられている。

セロトニンの合成、代謝に作用する薬品

セロトニンの合成を促進したり妨害する薬品は魅力的ではあるがまだ市場には登場してない。トリプトファンの処方はセロトニンの体内合成を促進するのでフェニルケトン尿症の治療に有効と思われる。実験的薬品であるパラクロロフェニルアラニンはセロトニンの合成を妨害してすなわちトリプトファンヒドロキシラーゼに拮抗してセロトニンのレベルを90%下げる効果があるがその毒性により治療薬としては採用されてない。その他の拮抗薬である6−フルオロトリプトファンとパラークロロアンフェタミンも研究中ですが臨床応用は発見されてない。一般に考えられているようにモノアミン酸化酵素拮抗剤はセロトニンのレベルを上げる作用を示している。

セロトニン減少薬およびセロトニン放出薬

フェンフラミン(ポンディミン)は食欲減退薬として市場に出ていたがこの薬品はセロトニンに選択的に作用してかつ長時間作用してセロトニンを減少させる。他の食欲抑制薬であるフェネチルアミン系薬品とは明らかに違います。今次第に多く使われている麻薬様物質である3,4−メチレンディオキシメタアンフェタミン(MDMA、エクスタシー、ADAM)は神経毒素が疑われるため心配されるようになり、実際ねずみや霊長類の神経細胞からセロトニンを長期にわたり減少させる事が分かった。EVEとして知られるMDMA類似物質も同じ毒性が知られている。

スケジュール1と分類されて規制される前はMDMAおよびその前で出ていたMDAはいわゆる町の化学屋さんと呼ばれる人によってデザイナードラッグとして合成されていた。これらは見とめられていない目的の為に使用され、精神医療家にも使用された。MDMAは1914年に食欲抑制剤として開発されたが初期の頃から毒性が認められてので一度も市場には出なかった。MDMAは心理療法において補助薬品として使用された。何故ならこの薬品は患者に使用すると不安を和らげ患者との会話をやりやすくする効果があったからです。MDMAは神経細胞の中の小嚢に存在するセロトニンを強く放出させるために脳全体のセロトニンレベルを著しく下げる。これによる長期的心理的効果と身体的影響はまだわかっていない。

セロトニン吸収阻害剤

セロトニンの活性が終了するメカニックはセロトニンが神経細胞の膜を通過して再吸収される時に起きる。セロトニンは各種の受容体と反応した後はシナプスの間隙より神経細胞に再吸収されて取り除かれる。他の体内合成されたアミンと同じ作用で特殊な膜移動物質で行われる。この吸収をセロトニンだけ選択的に阻害してやると受容体上のセロトニンの密度を増加させる。この措置は精神疾患特に鬱病に特に役に立つ事が発見された。

毎年アメリカの全人口の5%が鬱の症状に見舞われ精神薬を必要とすると言われている。1千から1千200万のアメリカ人が鬱に襲われ男女比では女性が男性の二倍多く発病している。病院に入院している患者の15%が自殺すると推測されている。しかし80−90%の患者が治療で治っている。抑鬱は感情の疾患で病因は一つでは言い表せません。今のところ支持されている仮説はカテコールアミン(ノルエピネフィリン)とセロトニンシステムの機能異常です。この仮説に立てば多くの抑鬱ではノルエピネフィリンとセロトニンが受容体の位置で不全を起していると考えます。だからこのノルエピネフィリンとセロトニンを薬物を使って受容体の位置で濃度を濃くしてやると鬱の相当程度の症状を緩和出来ると考えます。鬱治療の方法は過去数年の間は次の三つにしぼられています。すなわちノルエピエフィリンに似た物質で刺激する、ノルエピネフィリンとセロトニンの代謝を抑制してレベルを高める例えば(MAOIs)、ノルエピネフィリンとセロトニンの再吸収を妨害してレベルを高める。

現在手に入る古典的な坑鬱剤であるトライサイクリック坑鬱剤(TCAs)は一般的にノルエピエフィリンの再吸収を妨げセロトニンも妨害する。効果はTCAが第二級かあるいは第3級のアミンかによる。第3級アミンであるイミプラミンやアミトリプチリンはカテコールアミンより選択的にセロトニンの吸収を妨害する。最近ではSSRIすなわち選択的セロトニン再吸収拮抗剤が有効な坑鬱剤として研究されている。SSRIは第一世代のTCAと違って坑コリン作用を示さず心臓毒性が少なく眠気や体重増加を起さないと考えられている。

クロミプラミン(アナフラニル)は構造的にTCAに似ており、最初にアメリカ政府により強迫行為治療薬として認められた。セロトニン吸収を抑制するのに効果的であると同時にノルエピネフィリンの吸収も阻害する。クロミプラミンは中央ドーパミン受容体D2,ヒスタミン受容体H1、アドレナリンアルファ1受容体に対しても親和性があり坑コリン性を持つ。

第二世代の3つのSSRIがアメリカの市場に登場した。フルオキセチン(プロザック)とセルトラリン(ゾロフト)とパロキセチン(パクシル)がすぐ受け入れられて、最近のトップ200種類の処方薬のリストに挙げられている。フルオキセチンは最近強迫行為治療薬としても認可された。これらの薬はTCAに比べて決して効果が高いとか早いとかは言えないが副作用がはるかに軽い。この3つの薬の中でパロキセチンが最も再吸収阻害で効果が強くフルオキセチンが最も弱い。セルトラリンが最もセロトニンに対して選択的でフルオキセチンが最も選択的でない。フルオキセチンとセルトラリンは活性を示す代謝副産物を残しパロキセチンは代謝後不活性な物質に変わる。SSRIはセロトニンの再吸収だけを阻害してムスカリン、アドレナリン、ドーパミン、ヒスタミン、セロトニン等の受容体には少しかあるいは全く親和性を示さない。

SSRについては抑鬱以外に幾つかの治療応用が研究されている。その中にはアルツハイマー病、攻撃的行動の緩和、月経前症状、糖尿病神経障害、慢性の痛み、過剰飲酒の抑制がある。その中でも特に重要なのは食事の充溢感を増し食事の量を減らす効果です。アンフェタミン系の薬に見られるような依存性を示さ無いので肥満の解消薬としての可能性が検討されている。

ベンラファクシン(エフェクサー)は最近開発された坑鬱剤でTCAやSSRIとは化学構造的にあるいは薬学的に違うがセロトニンとノルエピネフィリンの再吸収を有効に妨害する。ドーパミンの吸収も少しだが妨害する。この代謝産物であるO−デスメチルベンラファクシンも同じ作用を示す。ベンラファクシンもその代謝産物もムスカリン、ヒスタミン、ベンゾジアゼピン、mu opioid、アドレナリンアルファ1等の受容体に大きな親和性を示さない。ベンラファクシンはラセミ混合物で投与される。両異性体も同じ作用を示すがS+異性体がよりセロトニンに対しては選択的に働く。ベンラファクシンはTCAと薬理性は同じで副作用はSSRIのようにマイルドである。

セロトニン受容体に働く物質

沢山のセロトニン類似物質が合成され研究されたが殆どが実際に使われるまでになっていない。トラゾドン(デシレル)は第二世代の坑鬱剤に属するがその作用の仕方は複雑である。アルファー2ノルエピネフィリン受容体の拮抗薬であるがセロトニンを選択的に吸収を妨害してセロトニン受容体拮抗作用も併せ持つ。興味深いのは代謝された後にメタクロオフェニルピペラジンに変化する。この物質はセロトニン受容体の作用物質でセロトニンの再吸収を妨害する。不安緩和剤であるバスピロン(バスパー)は部分的セロトニン受容体1A作用薬で他の受容体とも相互作用がある。

最近使われるようになったスマトリプタン(イミトレックス)はセロトニン受容体1D型に作用する薬品で激しい偏頭痛の治療薬として効果を示している。アメリカでは11人に一人の割合で発生していて35-45歳の年代に多く見られる。

偏頭痛を起す要因としては色々な事が言われていて例えばストレス、タバコ、疲れ、ぎらぎらした光、天候、ホルモンの失調、各種食べ物、(特に硝酸塩を含むものと硝酸塩を保存薬として使用している食物)カフェインを含む飲料、アルコール(赤ワイン)、血管を拡張する薬品等である。偏頭痛は脳内血管のコントロール障害と考えられている。例えば頭蓋内血管のはっきりとた一定間隔の拡張でないかと見られている。偏頭痛の発作の時には頭蓋内血管の局部的炎症が見られる。三叉神経が原因ではないかと考えられている。炎症を起した血管と関係がある求心性神経の刺激により起こされるのではないか。

偏頭痛にはセロトニン、スロンボキセインA2、プロスタグランジン、とこれらの類似物質が介在しているらしい。セロトニン受容体は脳血管に多く存在していて 中央神経系にも広く分布している。そこでは脳内の循環と痛覚に関与している。偏頭痛の始まる前にはセロトニンが血小板より自然に分泌され血管に入って行き動脈血管を収縮させ痛みを下げる働きをする。セロトニンが働かないと頭蓋外の血管が膨張して頭痛を起す。偏頭痛の最中にはセロトニンが分泌されその主たる代謝物である5-ヒドロキシインドール酢酸も増大する。セロトニン受容体の中でも1型亜種が最も関係があるのではと疑われている。なぜならこの受容体が頭蓋内血管に存在するからである。

スマトリプタンは選択的に頚動脈循環を収縮する。これは頭蓋内、頭蓋外の組織に血液を送っているのだが、その一つである髄膜の拡張は偏頭痛を起すと考えられている。スマトリプタンはセロトニン受容体の1D型と強く結びつき1A型とは弱く結びつく。スマトリプタンは更にprejunctional inhibitor receptorを刺激する。この受容体は血管周囲繊維に存在するセロトニン受容体1D型に似ており痛みにかかわる炎症神経ペプチドの放出を妨害する。スマトリプタンは特にセロトニン受容体1型に選択的に働く。2型、3型およびアドレナリン、ドーパミン、アセチルコリン、ベンゾジアゼピン受容体には親和性が無い。

一方ディハイドロエルゴタミンのような麦角アルカロイドは他の神経伝達物質の受容体に結びつく。スマトリプタンは皮下注射されて患者の86−96%を20−60分以内に完全に痛みから開放すると報告されている。偏頭痛治療に速く効いて経口投与できるセロトニン受容体TD型作用物質が速く開発される事が期待されている。最近ではシサプリド(プロプルシド)が夜間に胸焼けで悩む患者に患部の動きを促す薬品として注目されている。約44%のアメリカ人が1月に一度は胸焼けを起すといわれている。これは医学的には食道逆流と呼ばれる。その内の7−10%は一週間に一度かそれ以上経験して生活に困難を感じている。治療法には生活指導や中和剤、胃酸分泌抑制薬や消化管の自動を高める薬品が含まれる。

シサプリドはメトクロプラミドに構造が似ているピペルジルベンゾアミドの誘導体の代用薬品として使われる。試験管ではセロトニン受容体4型に作用するので消化管の自動作用を上げ、心臓の鼓動をます。シサプリドはメトクロプラミドに比べてドーパミン受容体への拮抗作用は弱く、アセチルコリンの分泌を促す。ムスカリン、ニコチン受容体を刺激する作用は無く、アセチルコリンエステラーゼをも拮抗しない。

幻覚物質であるLSDはセロトニンを妨害すると言われているが、明らかなのは全ての 中央神経系のセロトニン拮抗物質が幻覚作用を持つわけではない。セロトニン受容体2型に拮抗するケタセリンは坑高血圧剤として効果があると見とめられているがそれ以外のalpha1-andrenoreceptorsも同時に拮抗するので選択的でない。

セロトニン受容体3型拮抗剤であるオンダセトロン(ゾフラン)とグラニセトロン(キトリル)は癌治療の放射線や化学療法に伴う吐き気の治療薬として既に使われている。この副作用による吐き気や嘔吐は激しい。 中央神経系への刺激は色々の段階で起こり得る。消化管の受容体刺激、前庭刺激、大脳皮質を含む期待刺激等。今までに沢山のantiernetic試薬が調べられている。その中には坑コリン剤、坑ヒスタミン剤、ベンゾジアゼピン、バルビツール酸塩、カンナビノイド、フェノチアジンのようなドーパミン拮抗剤、ブチロフェノン、ベンズアミド等です。最近の薬の中ではメトクロプラミドが最も標準品として使われている。理由は過剰のシスプラチンの投与による吐き気に有効だからである。最近まではメトクロプラミドがシスプラチンによって引き起こされた吐き気に最も有効と考えられていたが、頻繁な錐体外路効果の副作用もある。

セロトニン受容体3型は嘔吐の生理学で重要な役割をしていると考えられていた。この受容体は抹消では臓器に、中央では大脳皮質、大脳辺縁系に高濃度で分布し化学療法の副作用としてセロトニンに異常が現れ嘔吐反射として現れると解釈されている。化学療法の最中には粘膜エンテロクロマフィン細胞がセロトニンを放出する。セロトニン受容体3型を刺激して迷走神経輸出管を放出して吐き気を起す。オンダセトロンとグラニセトロンは両方共にメトクロプラミドよりセロトニン受容体3型にたいして親和性が強く一方メトクロプタミドはセロトニン受容体3型よりドーパミン受容体に50倍親和性が強い。グラニセトロンは4,000倍から40,000倍脳においてはセロトニン受容体3型に対して他の受容体より親和性が高い。他の受容体とは1型、2型、ドーパミンD2型、ヒスタミンHT型、オピオイド、ベンゾジアゼピン、アドレナリンアルファー1、アルファー2とベーターである。それゆえにこれらセロトニン受容体3型拮抗剤は他の吐き気予防薬にある副作用が無い。特にドーパミン拮抗剤による副作用である錐体外路を防止出来る。オンダセトロンは経口、注射両方で処方されるがグラニセトロンは今は注射だけです。

今後の見通し

受容体や選択的にセロトニンに働く薬はこのように可能性は言い尽くせないものがある。だから製薬メーカーが今セロトニン関連で研究投資している額は膨大なものになる。現在までの研究の応用は次のようになる。

神経弛緩薬:現在の神経弛緩のメカニズムはドーパミン受容体の拮抗剤が主流を占める。セロトニン受容体2型もこの中に含まれる。何故なら神経弛緩剤と目される多くの薬品が2型に対して拮抗する。例えばクロザピン(クロザリル)はセロトニン受容体2型にドーパミン受容体より高い親和性をしめす。2型受容体の神経弛緩の役割は今だ分かっていないが新薬開発の鍵を持っていると思われる。その中でも特に注目されるのはげっ歯類と霊長類の行動研究でそれによるとセロトニン受容体3型拮抗剤は同時にドーパミンの活動に強く拮抗する事が分かった。この研究は分裂病治療薬新しいアプローチとして期待される。

坑不安剤:現在行われているセロトニンとノルエピネフィリンの再吸収の他にはセロトニン受容体2型が新薬開発の新しいターゲットになっている。2型の拮抗剤を坑不安剤として使う方法を今研究している。選択的セロトニン再吸収拮抗剤の坑鬱作用は既にこの論文で取り上げた。有力で選択的なセロトニン再吸収拮抗剤であるフルボキサミンは政府委員会により強迫行為の薬として認可するよう勧告された。この薬は坑鬱効果もある。

坑不安剤:第二世代の坑不安剤であるバスピロンは1A型の受容体と強く結びつく。一方ベンゾジアゼピン系の薬物はセロトニン受容体に対する親和力は非常に弱く主にGABAminergic機能に影響を与える。1Aの受容体に働きかけて坑不安のみを目指す薬剤はベンゾジアゼピンの持つ副作用(筋肉弛緩、眠気、機能障害、記憶障害)を無くすと期待されている。そればかりで無く3型受容体の拮抗薬は動物実験では大きな効果を挙げている。

心臓血管薬:セロトニン受容体2の拮抗物質は坑高血圧剤、抹消血管病、血栓、塞栓障害、心肺緊急事態等の薬としての可能性を研究されているが、何れも臨床的に問題を抱えている。フレシノクサン(1A作用薬)は今臨床テストの最中である。この部分への作用薬は坑高血圧薬として今沢山研究されている。

無痛覚薬:選択的セロトニン再吸収阻害剤であるフルオキセチンはねずみにくも膜下投与をすると無痛覚を起すのが分かった。セロトニンの痛覚との関連は今研究されている。
偏頭痛:2つの試験的セロトニン1受容体のような物に対する作用薬が急性の偏頭痛治療薬ととして臨床試験に入っている。この2種類の薬品はセロトニン1受容体を刺激して頚動脈床の血管収縮に影響させる。そしてエルゴタミンより選択的のようである。それ以外にセロトニン受容体3拮抗薬は偏頭痛に効果があると分かって来た。

過食症:セロトニンは食欲を減退させる効果があると考えられている。選択的セロトニン再吸収阻害剤やセロトニン放出物質は肥満防止薬として可能性がある。1A型受容体の部分的作用薬は食欲を増加させるので選択的にこの部分に拮抗させる物質があればそれは食欲を阻止するので無いかと思惑がある。セロトニンの作用に選択的に影響する物質はノルアドレナリンの作用に関わる物質よりすぐれているのではと思われる。ノルアドレナリン系の物質は依存性が認められるからである。選択的セロトニン再吸収阻害剤は過食症、拒食症ともに有効と出ている。

嘔吐防止剤:複数の製薬会社がV型受容体の拮抗薬を癌治療の際、投薬の副作用として起きる嘔吐の防止用に試験中である。経口投与でしかも即効が期待できる薬品が望まれる。

老人痴呆薬品:アルツハイマー病が老人ボケには一般的である。まだ病理学者がはっきり結論を出していないが、神経伝達化学物質がどのような役割をしているか今活発に研究されている。クロリン系に今疑いが集まっているがセロトニンも同時に注目されている。アルツハイマー病患者の脳の死後検証でセロトニンの働きがかなり減少していることが分かって来た。これは受容体1、受容体2が著しく減少していることを意味している。1A受容体のアルツハイマー発病時の役割を幾つかの研究グループが研究している。1A受容体の結びつく場所がアルツハイマー病患者の場合、死後の検証では50%に減少しており、しかしクロリン端末の1A受容体は無傷で残っている。これらから受容体の結びつきがアルツハイマー病の初期の化学変化として病気発見に有効で無いかと考えられている。初期の段階で病気を発見すればコリン系薬剤を有効に出来よう。

セロトニン2受容体もアルツハイマー病では減少していると報告されている。結局アルツハイマー型老人性の痴呆ではセロトニンの伝達が大幅に阻害されているのが分かる。だからセロトニンを活性させれば新しいタイプの治療に結びつくであろう。興味があるのは3型受容体の拮抗物質は認識力を高める効果が確認され動物では障害を受けた行動の改善を示した。例えばオンダンセトロンは老化による記憶障害に効果があり服用の量に関係がありと出ている。これは認識障害への3型受容体の役割を示している。

薬物依存:動物実験の結果では選択的セロトニン再吸収阻害剤はアルコール飲酒を減らし、コカインのような麻薬物質を欲しがる行動を抑制する効果が確認されている。臨床的には現在までの所SSRIは特に有用性は確認されていないが、飲酒量を抑制する事は確かなので薬物依存遮断薬として期待されている。現在のデーターでは結論が出てないが受容体3型の拮抗薬はモルヒネを意識的に使った時にその効果を減じる作用が認められた。しかしその効果により本人がモルヒネを止めたかは確認出来ない。3型受容体の拮抗体が麻薬禁断症状である不安に効果があるらしい。

痛覚:3型受容体は末端感覚神経で役割をしているのが分かっている。痛みを起し痛覚神経細胞を刺激する。痛みを抑える治療にこの3型受容体拮抗物質の可能性を検討するのは面白いのでないか。


結論

セロトニンの研究には今後多いに期待できる。たとえば過去6ヶ月の間にセロトニン受容体1A,1C,2型のゲノムクローンが分離されたと報告されている。神経芽細胞中の3型受容体の亜単位がクローン化されている。また最近のクローン研究により人間の遺伝子生産物である1D型受容体の2種類を同定した。これらは1Da、1Dbと呼ばれるものである。セロトニン受容体に対する最近の物凄い興味と発展と産学合同の各種セロトニン受容体とその亜種への選択的作用薬の研究により新しい精神医療薬への期待は大いに高まった。アナリストは90年代にセロトニン関連で売れる薬の総額は一兆円を越えるだろうと見てます。


主なセロトニン受容体の分類と機能

セロトニン受容体のタイプ 1型類似タイプ 2型 3型
その作用の仕方 心血管への作用 血小板凝集 反射徐脈
過食 血管収縮 痛覚刺激
痛覚過敏 吐き気、嘔吐
不安 行動への影響 偏頭痛
性行動 坑精神病作用
睡眠 筋肉収縮 不安解消
攻撃性 幻覚作用
偏頭痛 坑精神病作用



現在市場に出回っているセロトニン関係薬剤

作用の仕方 薬品名 臨床応用
セロトニンの減少あるいは放出 フェンフラミン(ポンディミン)
現在は売られていない
食欲抑制
選択的セロトニン再吸収阻害 フルオキセチン(プロザック) 坑鬱
セトラリン(ゾロフト)
パロキセチン(パクシル)
セロトニン、ノルエピネフィリン再吸収阻害 古典的三環系抗鬱剤 抗鬱
クロミプラミン(アナフラニル) 強迫行為
ベンラファクシン(エフェクサー) 抗鬱
セロトニン受容体作用 バスピロン(バスパー) 坑不安剤
スマトリプタン(ルミトレックス) 偏頭痛
シサプライド(プロプルシド) Prokinetic
セロトニン受容体拮抗 メチルセルジド 偏頭痛
オンダセトロン(ゾフラン) 坑嘔吐
グラニセトロン(キトリル) 坑嘔吐

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