夢遊病

2023年5月25日


夜中に起きて車にエンジンをかけて近くをドライブしたり、あるいはご飯の用意をして食事をしたりする経験をした事はないだろうか。目はしっかり開いているが脳は寝ている。これを夢遊病と言い、眠りと覚醒が同時に存在する不思議な現象である。夢遊病は就寝中に部分的に覚醒する覚醒障害で大人の2.5%、子供の14% が経験している。

一般に人が床に就くと1時間半のサイクルで軽い睡眠と深い睡眠を交互に経験する。軽い睡眠とはステージ1とステージ2で、心臓の鼓動が遅くなり体温も下がり、覚醒と睡眠の中間部分である。ステージ3の深い眠りに入ると脳は体のメンテナンス作業を開始する。ホルモンを出して皮膚を修復し、心臓血管を補修し免疫を改善し記憶を固定する。この時、脳は物理的に縮小するため脳脊髄液の循環が良くなり、日中に溜まった老廃物を排出する。

第4ステージはレム睡眠と言われ夢を見る。血圧は上がり心拍、呼吸も早くなり脳波も活発になり脳細胞の動きは覚醒時と同じになる。夢で体が動き出さないように体は麻痺の状態になる。この睡眠ステージの変化は脳深部から分泌される物質により厳密にコントロールされている。

夢遊病はレム睡眠時ではなくてステージ3の深い睡眠の状態で起きる。すなわち夢遊病とは一般に信じられているような夢を演じて歩いているのではなく、眠りに入った比較的早い時期に起きている。

深い眠りの状態では脳皮質の活動は不活発であるが、時々大脳辺縁系が活発になって大脳皮質を覚醒してしまう事があり、これが夢遊病状態であり脳に睡眠と覚醒が同時に存在する状態である。背外側前頭前皮質と言う脳の前部にある部分と海馬は寝ているため、論理的思考と自己認識が出来ず自分のした事を忘れている。夢遊病を引き起こす原因は未だ分かっていないが、遺伝子が重要な役割をしているらしい。

近親者に夢遊病を経験している人がいると10倍ほど夢遊病を経験しやすい。一卵性双生児と二卵性双生児では一卵性双生児では5%ほど上昇する。

ストレスや心理的苦悩も不完全な睡眠を引き起こしやすい。PTSDの患者では扁桃体が寝ている最中に活性化してしまうため熟睡は難しい。トローマを経験した人たちでは扁桃体は物理的にも普通の人に比べて肥大している。前頭前野皮質から延びる神経線維も少なく細くなっているため感情脳である扁桃体の暴走をコントロールするのが難しい。

睡眠から覚めてしまうこの状態は子供に起きやすい。子供では前頭前野皮質が未発達なので睡眠時の覚醒を抑制できない。 しかし子供も十代に入ると 80%の割合で減って行く。
脳については分からないことが多いが、夢遊病から意識も脳の状態により複雑な面を示すのが分かる。



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