最近行われた大掛かりな躁鬱病遺伝子を調べる研究では、脳細胞の中のナトリウムとカルシウムのバランスが躁鬱病発症に深く関わっているのが分かった。躁鬱病にはある種の遺伝子変異体が関連していて、その変異体は神経細胞へのイオン流入を制御するチャンネルの部品を作る遺伝子であった。 「神経細胞の興奮のしやすさ、即ち信号を強く発するかどうかは細胞の微妙な釣り合いにかかっています。2つの蛋白質が躁鬱病に関連していて、細胞のイオンチャンネルを制御していた。この蛋白質は現在使われている躁鬱病治療薬が作用する場所でもあったのは興味深い」とマサチューセッツ総合病院の Ph.Dであるパメラ・スクラー氏は言う。 未だこの遺伝子変異体がどのようにイオンバランスを制御しているかはっきり分かっていないが、躁鬱病と言うものが少なくてもイオンチャンネルの不全により発症していると指摘している。 「今までの躁鬱病遺伝子研究ではなかなか結論が出なかったが、今回の研究では統計的手法を使って結果を引き出している。この成果がアメリカで数百万人いるといわれる躁鬱病の患者を救うのであればよいと思う」とインセルは言う。 去年の秋に発表された第一回目の躁鬱病遺伝子研究の報告では、躁鬱病治療薬であるリチウムが作用する酵素を作る遺伝子に注目していた。しかしその後の研究では、他の染色体の部位にある遺伝子も関連しているのが分かった。 躁鬱病の発症には多くの遺伝子変異体が関連していると考えられているので、小さな手がかりを求めて沢山のサンプルを調べる必要があった。 発見の可能性を高めるために、スクラー等は直近の2つの研究データーにスクラー等の研究データーを統合して統計的に処理した。それ以外にもSTEP-BD研究、スコットランド人とアイルランド人の家族のサンプルも加えた。それにより4,387人の躁鬱病患者を含む10,596人の遺伝子変異体の180万ヶ所を精査し、14ヶ所の染色体に散らばる2つの遺伝子が躁鬱病発症に関連があると結論した。 以上の研究から、Ankyrin 3 (ANK3)と呼ばれる遺伝子変異体が躁鬱病に強く関係していた。ANK3は神経細胞軸索の最初の部分に存在していて、信号を発するかどうかを決定する細胞組織の一部になっている。今回の発表の共同執筆者は去年ネズミを使った実験で、躁鬱病治療薬であるリチウムがこのANK3の表現を抑えるのを発見している。 脳細胞のカルシウムチャンネルに関連する遺伝子変異体も次に重要な躁鬱病発症因子として注目されている。カルシウムチャンネルに関連するタンパクとはCACNA1Cで、カルシウムの細胞への出入りを制御していて、高血圧治療薬と躁鬱病治療薬が作用する場所でもある。 脳科学ニュース・インデックスへ |