ぼんやりの効用

2014年1月14日
今から2,500年前、ゴータマ・シッダルダと言う名の王子がインドのブッダガヤに旅して、ある木の下で瞑想を開始した。49日間の瞑想後、彼は悟りを開きブッダになったと言い伝えられている

最近では、心理学者のアミシ・ジハがハワイを訪れ、ブッダのした同じ瞑想でアメリカ海兵隊の戦場でのタフな心理の養成を試みた。
「毎日12分の瞑想をすると、海兵隊員の注意が向上して、より良い任務遂行に寄与したが、12分以下では効果が少なかった」とマイアミ大学のアミシ・ジハは言う。彼女のプログラムは国防省から4年間の訓練と、1億7千万円の予算を獲得している。その彼女が今度ニューヨーク・アカデミー・オブ・サイエンスで訓練結果を発表した。

「2005年に瞑想の言葉を始めて聞いた時、その意味が分からなかった」と彼女は言う。実際、瞑想は長いこと科学の主流には受け入れられなかった。マサチューセッツ医療センター大学の名誉教授であるジョン・カバット・ジン等が、1970年頃からストレス予防を目的とした瞑想を講義しているが、2005年以来10数本の臨床テスト結果が発表されているだけであった。

瞑想とは一般にはまっすぐ不動で30分ほど座り、ゆっくり腹式呼吸をしながらその数を数える。その瞑想が今や、兵士の訓練から学生の学力向上まで多方面で応用されるようになった。

オレゴン大学のマイケル・ポスナーとテキサス工科大学のユイ・ユアン・タン等は、被験者に瞑想訓練を11時間訓練してもらい、fM.R.Iでその脳の変化を調べたところ、脳の白質が強化されているのが分かった。白質は前帯状皮質から出ている神経細胞を保護する役割をするから、合理的判断と問題解決能力を向上させているのであろう。

”Psychological Science”誌に5月に発表された研究によると、学部学生に一日10分の瞑想を2週間訓練してもらった所、大学院進学テストの結果が16%向上したと言う。学生の作動記憶が改善し、マルチタスク能力も向上したと言う。東洋の神秘主義を西洋が取り入れている分けであるが、瞑想は注意をそらさない訓練であるから当然の結果とも言える。

「自分の心の方向が認識できて、その方向を制御できるようになれば、それは我々の力になり得る。瞑想訓練をすると、考えや感情は通り過ぎるものだと気がつく」とイギリス、リバプール・ジョーン・ムーア大学のピーター・マリノウスキーは言う。

しかし、ここで注目すべき事実は、瞑想には思わしくない副作用があることだ。流浪する心を停止させると、洞察、直観が低下するという報告があった。
2012年にカリフォルニア大学のジョナサン・スクーラーは”心の流浪と霊感”と題する研究を発表した。彼は被験者に心は大いに流浪してもらいながら、簡単な作業をする実験をした。実験後に被験者の創造性を調べると、向上しているのが分かった。その後、物理学者や作家を調べると、彼等もぼんやりしている時が一番インスピレーションが湧くのが分かった。

「物理学者や作家の閃めきの3割ほどは、ぼんやりしている時であり、しかも難問を打開するような素晴らしいものであった」とスクーラーは言う。

要は瞑想が役立つ時とそうでない時があるのだ。「窓の外をぼんやり見ていると、授業から注意がそれる。危険な場所での車の運転、機械の操作で、ぼんやりしていたら事故にあう」とスクーラーは言う。

ジョージタウン大学の研究からも、瞑想の問題点が指摘された。11月の神経科学の会合で発表では、瞑想訓練の成績が良いほど無意識に学習する成績が悪かった。我々は多くの日常作業を無意識に習得していて、それが学習の基礎になっている。

研究では、被験者に次々に違った物を見せて、その次に現れるものを当ててもらう。ほとんど無作為に表示するが、配列には多少の隠されたパターンがあり、それを見つけてもらうのであるが、瞑想が得意な人たちは成績が悪かった。

「我々の脳は、無意識の時も作動しているのです。瞑想は、はっきりした目標には有利かも知れないが、第六感を働かせる場合は不利なのだろう」と研究を指導したチェルシア・スチルマンは言う。

自転車の乗り方、言葉を文法通りに話す、人の表情を読み取る等は、我々が知らないうちに学んでいる。いささか冒涜的な報告ではあったが、ブッダも我々がインスピレーションを得るために瞑想を止めるのを否定はしないであろう。



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