2022年6月2日 |
最近ソーシャルメディアでは不安を鎮静させ、気分を落ち着かせると言う迷走神経の刺激が話題になっている。 ティックトックで迷走神経と入れて検索すると6400万回ヒットし、インスタグラムでは7万の書き込みがあった。 迷走神経を刺激するには、顔を冷たい水に浸したり、横に寝て氷まくらを胸に乗せる、あるいは首、耳のあたりのマッサージや眼球運動、深呼吸をする方法がある。 一方、迷走神経オイル、バイブレーション腕輪、枕元に置く香水とかの商品も売り出されていて、社会は抗鬱剤に代わる何かを求めている様子が伺える。迷走神経を専門に研究している専門家は、難治性の鬱の改善が期待できると言う。 迷走神経とは 迷走神経とは数千もの神経線維から出来ている二つの神経の束で、脳幹から首の両脇を経て、胴体に下降し各内臓につながっている。木の葉、幹が根っこにつながっている図を思い浮かべると分かりやすい。脳幹からは迷走神経を経て各臓器に命令が伝わり、各臓器から脳幹へは情報がフィードバックされる。迷走神経は12本ある脳神経でもっとも長い神経で、体の情報ハイウェーとも呼ばれ、海洋を渡る海底ケーブルに似ている。こうして脳は消化、心拍、発声、感情、免疫を制御している。 「ごちゃごちゃのシグナルを送る神経の束ではなく、各々のシグナルはその目的を持つ」とニューヨーク・ノースウェル医療センターのトレイシーは言う。迷走神経は副交感神経でもあり、副交感神経は休憩、消化、落ち着きの役割をして、交感神経はその反対に恐怖に対応する。 研究で分かったこと 迷走神経の研究は、癲癇治療の可能性を求めて1800年代後半に始まったが分かって来たのは、ここを刺激すると癲癇、糖尿病、鬱病、PTSDからリュウマチのような免疫疾患まで有効であることだった。コロナ後遺症もコロナウイルスによる迷走神経の障害と言う報告もある。 「何にでも効く万能薬みたいなものです」と、イブレンテクノロジーと言う会社と共同でPTSD患者用の外付け迷走神経刺激装置を開発したフロリダ大学のエリック・ポージは言う。 研究は続く 2005年にアメリカ食品薬品局は、治療困難な鬱病治療に埋め込み型迷走神経刺激装置を、次いで肥満と癲癇治療にも同装置を許可した。問題は手術費用が高いことと効果が現れるまでの時間がかかることだ。また躁鬱病治療にも期待されている。鬱治療で困難なのは、既存の薬物は皆同じメカニズムで作用するため、一つが効かなければもう他にないとシェパード・プラット精神病院のスコット・アーロンソンは言う。 現在は、保険会社が費用の負担を拒否しているため、迷走神経刺激装置を一般の人は装着出来ないが、どうしても試したい人は臨床試験に参加する必要がある。 PTSDでは血中の炎症レベルが高く、これが脳内で不安を起こしているのではないかと疑われている。従って炎症を抑制する迷走神経刺激にはPTSD治療の可能性もある。 16人の被験者が参加したエモリー大学での予備試験では、迷走神経近くの首の皮膚を電気的に刺激した。8人には本物の電気刺激を与え、残りの8人は偽の刺激を与える。その結果、電気刺激を与えるとストレスにより起きた炎症反応を抑えて、PTSD症状を軽減していた。 迷走神経の動作を確認する方法 迷走神経は込み入っていて、その動作を説明するのは難しい。しかし一部の迷走神経は心臓につながっているから、心電図を見て間接的に迷走神経の動作を観測できる。迷走神経を刺激しても心拍に変化がない場合は糖尿病、心不全、高血圧が疑われる。心拍がはっきり変化すれば迷走神経は十分作動している。 自分でするには 息を止めて顔を冷たい水の中に入れると心拍は遅くなり血管は収縮し心は落ち着く。不眠を解消する効果もある。氷を布でくるんで胸に当てると言う人もいる。このような効果は医学的に確認したものでないが、専門家はやる価値はあると言う。 「私は医師の判断なしには勧めない。瞑想、運動、呼吸法も迷走神経を刺激するから、こちらを勧めます」とトレイシーは言う。 脳科学ニュース・インデックスへ |