ストレスは脳を収縮させる

2012年1月9日

ストレスは避けて通れないわれわれの生活の一面ですが、最近の研究によると、この日常のストレスが脳に変化を起こさせる可能性があり、神経症、鬱状態、薬物依存の原因になると指摘している。

イェール大学精神科、神経生物学の教授であるラジタ・シンハ氏は、健康な人でもストレスを繰り返し経験していると前頭葉に収縮を起こすと”Biological Psychiatry”誌で指摘している。彼によると、脳を収縮させるストレスは必ずしも激しいトローマばかりでなく、生涯に受けるストレスの合計が脳の容積を減らしているとしている。

シンハ等は100人の健康な人に離婚、家族の死、家の喪失、失職等の苦難、困難を話してもらい脳の画像を取った。その結果、つい最近経験した困難も前頭葉の灰白質を減少させているのが分かった。この領域は、感情や自己コントロールの中枢であると同時に、ブドウ糖やインシュリンのレベルの安定を保つ脳でもある。

「ストレスは主に感情、認知、欲望、衝動に関わる前頭葉に影響を及ぼしていた」とシンハは言う。もしこの部分の神経細胞が劣化すると、われわれの衝動を抑える機能が低下して薬物依存や情緒不安定を起こしやすくなる。「前頭葉は生理代謝を一定に保つ働きをしていると同時に、判断のような生存に欠かせない機能を持つ重要な脳なのです」とシンハは言う。

研究では、ストレスの脳の各部分に及ぼす影響も調べた。それによると、直近の事故とか、失職、重大な病気の発症も前頭葉を収縮させていた。癌のような疾患や家族の死がわれわれの感情の中枢を収縮させ、鬱病や神経症の発症を引き起こしているのではないかと言う。

われわれが通常経験しているストレス、例えば締め切り期限前の仕事の完成とか、生活と仕事の両立の困難などは脳の大きさに影響を与えないようであるが、目に見えない形で蓄積していて、何か突発的な悲劇が起きたときに脳の収縮となって現れるとシンハは言う。慢性的ストレスは脳を次第に疲弊させ、激しいトローマが襲ったときに適切に対応出来なくさせている。

しかし、日ごろのストレスが蓄積すると分かれば、われわれはそれを緩和させることも可能だ。「脳は驚くほど可塑性に富むから、運動や瞑想、あるいは社会の助け合いで縮んだ脳を元に戻せる」とシンハは言う。



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