どもりの脳と治療法 2015年2月23日 |
カリフォルニア大学サンタバーバラ校から、2つの注目される、どもりに関する研究発表があった。
最初の発表は、同大学が開発した新しいどもりの治療法で”the American Journal of Speech-Language Pathology”誌に発表された。2つ目の発表は、脳スキャンを使った研究で、どもり患者に現れた脳白質の異常部分を説明している。この論文は”theJournal of Speech, Language, and Hearing Research”誌に発表された。 カリフォルニア大学の名誉教授であり、2つの研究の共同執筆者であるジャニス・イングハム氏によると、要点は二つあり、一つは、どもりの人の脳には神経解剖学的に正常でない部分がある事。二つ目は、それにも関わらず練習により普通に話せるようになる事と言う。 「この論文により、どもりの治療の可能性と、その原因に迫ることが出来た。心理学のスコット・グラフトン氏と協力して、神経解剖学的解明が、治療とどう結びつくか調べるつもりです」とイングハムは言う。 新しいアプローチ ロージャー・イングハムのどもり治療法は従来のやり方と違う。今までのやり方は、患者に発音を伸ばす指導をするのに対して、新しいやり方では、患者にどもる時に発する短い発声を減らすように指導する。短い発声を減らすとは、Shoutの場合、outは母音でshは子音であるが、この母音部分の短期繰り返しを減らす。この方法の補助として、コンピューターソフトを作成した。コンピューターソフトは患者にフィードバックして、短い発声頻度を知らせて訓練する。忍耐強く訓練すると、会話が改善し、その効果が長く続くのが実証された。 「どもりを矯正するのは簡単ではない。毎日2時間から3時間訓練して、それを毎週6日間、3週間で終了する。それでもプログラムの4分の1でしかない」とイングハム氏は言う。 このプログラムは全部で4部分から出来ていて、全て患者と医師が、コンピューターを通して語り合いながら作業出来るようになっている。 困難な訓練 患者の進み具合を見ながら次第に難しい問題に取組む。 「考えられる出来るだけ多くの状況を作り出さなければならないわけで、敢て大学のノーベル賞受賞教授のインタービューを受けさせたりする。また、トーストマスターの人前で話す訓練も取り入れている。その他に、仮想現実空間も試している」とイングハムは続ける。 イングハムの新しい手法と従来からある訓練を比較した所、結果には大きな違いはなかったが、イングハムの手法では、より具体的に事態に対処できるようになる。訓練終了後12か月の時点で、イングハムの手法の方が2倍ほど効果が持続した。 どもりの神経生理学 しかし、どもりとは一体何が原因なのか。答えは脳の白質にあるらしい。 カリフォルニア大学サンタバーバラ校のグラフトン教授等は、MRIスキャンの拡散スペクトラム画像を使って、8人のどもり患者の脳の白質を調べた。拡散スペクトラム画像は、脳の神経束をきれいにとらえることが出来るから、神経が交差する場所やその連結具合を確かめられる。グラフトンによれば、神経束をハイウェイと一般道路の交差する様子に例え、脳ではこれが3次元に交差していると言う。 この画像による研究の結果、どもりの患者には、弓状束に問題があるのが分かった。弓状束は脳の言語野を結ぶ重要な神経経路で、文字通り弓状の形をしていて、脳の前部と大脳皮質の言語野を結んでいて、脳の後部では3部分に分かれる。 「注目しているのは後半部分です。多くのどもりの患者では、この神経路が側頭葉に連結しているが、我々が調べた8人のどもりの患者では、その内の7人が、弓状束の第三分枝が消えていた。故に、この7人からは特に変わった症状が見られるのです」とグラフトンは言う。 これを調べるには繊細な画像が必要であるばかりでなく、新しい分析技術が必要となる。 「どもりの患者一人一人から膨大なデーターが得られるが、それを分析するには新しい分析手法を作らないとならない。我々は、得られた40,000種のコードから、脳の白質を分析するプラットフォームを作成した。この分析により、神経経路を詳細に再現出来るようになった」と分析の開発にあたったシースラクは言う。 更に続く研究 「彼等は弓状束の一部を失っているが、治療の結果、それが修復されたのかどうか、拡散スペクトラム画像を使って研究したい」とグラフトンは言う。 かつて、どもりは心理学の対象で、不安の問題とされた。今やどもりは、脳神経学や生理学の扱いになった。「我々は、どもりの人の脳では、何か基本的に違っているのではないかと考えている」とグラフトンは言う。 「どもりは、成長段階で現れる発達障害で、社会に広く分布していて、人生に大変な影響を与える。しかし、今までは、研究者も、それを金銭的に補助をする団体も現れなかった。そんな現状を今回の研究で打破できるような気がする。この研究は、単に、どもりばかりでなく、識字障害 、言語失行症等の原因追求にも役立つでしょう」とグラフトンは続ける。 脳科学ニュース・インデックスへ |