経験による遺伝子の変化

2008年 5月5日

後生的変異即ち食事とかストレス、産後の母親の子供の面倒が遺伝子の活動に変化を与えることが分かり、欝の治療を研究する上で注目を浴びている。

「鬱状態を起こすストレスのメカニズムは未だ解明されていない。鬱病の不可解さはその慢性的性質と抗鬱剤の効き目の悪さです。その原因として考えられるのは後生的遺伝子変化と言われているもので、遺伝子の文字配列そのものが変化するものではない遺伝子の活動の変化です」とシンポジウムの主催者であるテキサス南西医科大学医師であるエリック・ネスラー氏は言う。

遺伝子変異と違って後生的変異は遺伝子の構造が変化するものではなく、クロマチンと呼ばれる長いDNAを束ねる糸巻き上の分子に変化が現れる。ある化学作用がクロマチンをほぐして遺伝子を構成するDNAコードの暴露時間を長くしたり短くしたりすれば、遺伝子のスイッチをオン、オフするのと同じになり、蛋白質の生産に影響を与える。蛋白質の生産が変化すれば身体あるいは我々の行動様式に影響を与える可能性がある。細胞は細胞分裂をするから一つの細胞から他の細胞にこの特性が伝達され、両親から子供にも特性が伝達される可能性がある。

鬱病は慢性化し易く、およそ1,500万人がアメリカでは罹患している身近な病気である。多くは抗鬱剤や心理療法で治療されているが、治療に効果が無い人もいるため新しい治療法求められている。鬱病での後生的変異研究は最も重要な課題になっていて、鬱病モデルの動物の脳や死者の脳の研究で、クロマチンのメカニズムに変化が生じているのが判明している。

鬱病様の症状に生じた脳の微妙な変化
ネスラー等は、長期のストレスにより側座核と海馬の遺伝子のクロマチン再構築に変化が生じているのを発見した。「側座核と海馬のクロマチンの変化は一定の行動異常に関係している」とネスラーは言う。ネスラー等は動物を使った長期のストレス試験で、クロマチンに作用させて抗鬱効果が起きるのを確認している。

マサチューセッツ医科大学のシャラム・アクバリアン等はDNAとヒストンのメチル化と言う一種の化学的変異を研究している。ヒストンは蛋白質であるがクロマチンのバックボーンになっている。

「脳クロマチンでも化学変異は妊娠時から年を取るまでダイナミックに発生している。これが遺伝子表現の変化になっていて、脳由来の神経栄養因子や神経症発症要因になるのであろう」とアクバリアンは言う。

彼の後生的変異の研究から抗鬱剤治療の新しい試みも考えられる。アクバリアンのネズミによる研究では、後生的変異により生じた化学的変化がプロザック等の抗鬱剤の効果を高めている。

母親の影響
モントリオールマックギル大学のマイケル・ミーニーはネズミを使った実験で、子供のネズミから母親の離した場合、海馬にある遺伝子のメチル化に変化が起きて、生涯に渡る行動の変化をもたらしたと報告をしている。

ミーニー等は早親の子供に対する面倒、例えば毛づくろいや、なめたりする行為が子ネズミのストレスに対する行動に変化を与えるているのを発見している。

「経験によりDNAとクロマチンが化学的に変化し我々の生き方に影響が及ぶのが分かった」とミーニーは言う



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