トランスジェンダーと遺伝子

2020年2月7日


最近の研究によると、性同一性障害が起きる原因は、脳の発達段階で作動する遺伝子に起因しているらしい。男性で0.5から1.4%、女性で0.2から0.3%に性同一性障害が発生する。多くのトランスジェンダーでは、5歳になるころから症状が出始まる。

Scientific Reports誌に発表された研究では、性同一性障害を患う男女30人のDNAを調べて、脳の中で性ホルモンの分泌を指令する19の遺伝子の中に、21個の変異体を発見した。

この遺伝子は、生まれる前の脳と生まれた直後の脳に働きかけてエストロジェンの分泌を決定するが、エストロジェンは脳を男性化させる働きがあるから、生まれた時には男性だったのにその後女性化した人は、多分このプロセスに問題があったのだろうと述べている。

性同一性障害とは、生まれた時に与えられた性が、その後に内から湧き上がる感覚とぶつかるために起きている。例えば、生まれた時は陰茎があっても、心理的には女性になるのが一例である。

研究では、13人の男性トランスジェンダーと17人の女性のトランスジェンダーの血液を採取してDNAの構造を調べた。
研究を執筆したアメリカ国立衛生研究所のグラハム・タイセンは、今回の対象者は30人と少なかったが、今までで最も規模が大きいと主張する。しかし今後、200人を目標に研究を進めて行きたいと言う。

今の所、生物学的原因が未解明だからトランスジェンダー問題に医療は対処できない。その意味で今度の研究は一歩前進になる。

「必ずしもトランスジェンダー遺伝子を発見しようとしているのではない。性とは目の色が人により違うように、人間の特性の一部だ。我々は性の発達と遺伝子との関連を調べる事にある」とタイセンは言う。

「人の性は、沢山の遺伝子の共同作業で決定され、そこに環境とか社会も影響している。一般の女性以外にも女性に近いトランスジェンダー、男性に近いトランスジェンダー、あるいは男にも女にも属さない人もいる。研究の目的は、性を決定する生物学的背景を調べる事であり、背景が分かれば性同一性障害に悩む人の一助になるし、性同一性障害者に対する差別も解消できる」とタイセンは言う。

「過去数十年の研究から、性の決定には生まれる前のホルモン暴露によるものが大きいのが分かった。ホルモン暴露には幾つかの遺伝子が関わっている」とマンチェスター法科大学のサイモナ・ジョルダノは言う。

一方、 「今は遺伝子の編集まで出来る時代だから、性同一性障害を起こす遺伝子が分かれば、遺伝子を編集して治せの主張が出てきそうだ」とジョルダノは警告する。

「この種の議論は皮膚の色で人種差別するのに似ていて良くない。次第に性を決定する要因が分かって来たが、未だ多種ある性特徴を説明するには十分ではない。 この種の研究は、性全体の認識を高める方向に向くべきであり、ある特定のグループを標的にしてはならない。トランスジェンダーだけを対象に研究すると、うっかり彼らへの差別を助長しかねない」 と彼女は言う。



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