無意識からの解答

2009年4月16日
The Economist誌 Science and Technologyから

我々の脳は、我々自身が気が付く前に重要な決定をしているようだ。
誰でも次のような経験をしていると思う。例えば難しい問題に直面し夢中になって考えたとしよう。しかし解答が見いだせない。このまま解決策が見いだせないかと暗澹たる気持になるが、諦めて歩いていると、突然何処からか解答が現れる。やった!!とこんな経験である。

しかしこの解決は本当に突然何の理由も無く現れたのか。ロンドン・ゴールドスミスカレッジのジョイディープ・バータッチャヤ氏とテキサス・ヒューストン大学のバービン・シース氏は最近認知神経科学誌に次の研究を発表した。研究では、実は脳の無意識部分で解答模索が続いていて、我々が解答に気づく数秒前から脳波計で検知できると述べている。

インスピレーションが脳の何処から来るかは大変興味ある問題であるが、これを実験的に証明するのは難しい。ある人はなぞなぞ解きで調べようとするが、インスピレーションを調べると言うより状況観察だとの批判もある。あるいは言葉でテストする場合もある。被験者に3つの関連性の無い言葉を与える。例えば、スカート(skirt)、黒(black)、置く(put)の3つの言葉を与えて、その3つに共通する4番目の言葉を発見するように言う。この場合、解答は(out)であるがこれはインスピレーションと言うより語彙のテストに近い。

バータッチャヤ氏とシース氏は第三のやり方取る。なぞなぞではあるが、より現実的で日常的な問題を選んだ。パズルは簡単ではあるが知られていなく、方法論では解決出来ないものである。実験では18人の被験者を集めてなぞなぞを与え、解答を探してもらい、その間脳波計で彼等の脳波を測定した。

そのなぞなぞの一つにこんなものがある。3階建てのビルディングの1階の壁に3つのスイッチがある。そのスイッチの内の2つは2階の部屋の電球に連結していないが一つは連結している。2階へは一回だけ行くことが許されるが、その時スイッチは切らなければならない。さてどうしたら2階の電球につながっているスイッチを発見できるか。

この問題をコンピューターのスクリーンに提示して被験者に解答を求めた。被験者の脳の電気活動(俗な言葉で言えば脳波模様)は脳波計で始めから記録されている。被験者はパズルを読むのに30秒間、それを解くのに60から90秒間与えられる。時間内に答えられない場合はヒントが与えられる。ヒントとは”スイッチをしばらく押して切る”である。

もちろん解答を出せた人と出せなかった人がいたが、重要なのは脳波計が誰が正解を出すかを予測したことだ。この実験では、正解を出した人の脳はそうでない人とは違った脳波を出していた。所でなぞなぞの正解は、2階へ行った時に電球の光を見るのでなく、電球の熱さに注目することだ。

右前頭皮質は心の状態の変化に関与しているが、解答を出した人の脳にはこの部分からの高周波ガンマー線(47-48サイクル/秒)に増加が認められた。そればかりか、被験者が解答に気が付く8秒も前から高周波ガンマー線が増加していた。既に脳波計が思考の変化を検知していたわけだ。

1980年にもカリフォルニア大学のベンジャミン・リベット氏が同じような発表をしている。この発表では、指を動かすような簡単な意思決定では本人が気が付く0.3秒前にシグナルが出ていて、その意思決定の源流は更に10秒前にあったと言う。今回の実験では、それよりかなり複雑な思考でも8秒も前からインスピレーションシグナルが検知されていた。

今度の実験と1980年のリベット氏の実験を合わせて考えると、我々の脳の活動の複雑さに目を見張る。意識的思考が問題の解決策を案出するのではなくて、無意識思考が既に背景にあって、そこで解決策が見えたときに初めて脳は解答を意識脳に送り込むと言うプロセスだ。うーん、なるほど。



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