第二の視覚

2017年5月15日

電車の中、あるいは公園を歩いている時に、誰かが自分を見ている気がして振り向くと、実際人が自分を見ていたと言う経験はないだろうか。この現象が起こる理由が、ブラインドサイトと言う盲目の人を観察することで分かり始めた。
普通、目に入った情報は脳皮質の視野に送られて処理され、見たと感じる。しかし、目からの情報はそれ以外の脳にも送られ、それに反応しているらしいことが分かった。

我々は、後頭部にある皮質が視覚を担当すると習ったが、実は目から取り入れられた情報は、少なくても10の別の脳に送られ処理されている。それが我々の意識の外側で影響を与えているらしい。

これが分かり始めたのも、ブラインドサイトと言う脳の一部に障害を負った人たちを調べていて分かった。人は、事故で視覚皮質に障害を受けると目は開いているが見えない。皮質性盲目と呼ばれ、目を失う盲目と違って物は見えないが、物に反応する。何故なら脳の他の部分が視覚情報を処理しているからだ。

1974年に、ラリー・ワイスクランツと言う専門家が、ブラインドサイトと言う言葉を作り出した。ブラインドサイトとは、脳の視野が破壊さているために、意識的には物が見えないが、無意識で物に反応する人を言う。本は読めないし、映画も見る事が出来ないが、光が来る方角を示して、それが偶然より高い確率で当たる。明らかに、脳の他の部分が目からの情報に感応している証拠だ。また、ブラインドサイトでは顔の表情を読み取るし、動きをぼんやりと捉えることも出来る。最近の研究では、誰かが凝視しているのを感じるとの報告もある。

スイス、ジュネーブ大学病院のアラン・ペグナ等は、TDと言う名のブラインドサイトの患者を調べた。この患者は元医師で、脳出血で視野皮質に障害を起こし、皮質性の盲目になっていた。彼に実験に参加してもらい、2つの人の写真、(一方はこちらを凝視していて、他方はそっぽを向いている)を見てもらった。
彼はfMRIスキャンの中でテストしているから、脳の活動の変化を観察出来る。結果は、彼は見えないはずの写真の人物に反応していた。反応した脳の部位とは海馬と言う、感情を処理し、顔を判断する領域であった。実験では、TDは凝視している人物により強く反応している。

皮質視覚、即ち意識視覚のお蔭で我々は人を見分け、映画を見て、この記事を読むことが出来る。しかし、人には無意識の視覚と言うものがあるのが分かって来た。この機能はより単純で、生存に欠かせないものらしい。意識的には見えなくても、視野の隅に映った像を知らせてくれる。

故に、暗い道を歩いていて、ちょっと横を振り向いたら誰かがそこに立っていたとか、何気なく見上げたら誰かが自分を見つめていたとかの経験は、決して超自然現象ではなく、今まで気が付かなかった脳のもう一つの機能を示している。脳はレーダーの如く、我々の環境を監視している。



脳科学ニュース・インデックスへ