パニック障害
                                         

もしダーウィンが慢性的神経症に悩んでいなかったならば、彼は決してあの偉大な進化論を書き上げなかったであろうと言われています。実際は彼はこの神経症で世捨て人の様な学者になってしまったのです。

20代が終わる前に彼は原因不明の病気で次第に衰えて行き、その原因は学者により神経衰弱、南洋風土病、砒素中毒、痛風とか推測されましたが、つい最近のJournal of American Associationによると、広場恐怖症が悪化したパニック障害でないかと発表されています。この巡り合わせが大博物学者をして社会から隠遁させ画期的な自然淘汰の発見に至らせたのではと考えられています。もしこの病気に見舞われなかったら、進化論が種の起源に凝縮する情熱は有り得なかっただろうと。
アメリカでは約1300万人がパニック神経症に見舞われ、その症状は突然の激しい不安発作、動悸、息切れ、振え、発汗、吐き気、めまい等です。ある患者は気が変になるのではとか死ぬのでは無いかと感じ、それ以後再発を恐れるあまり生活が一変し、起こりそうな環境を一切避ける様になります。ダーウィンは彼自身その苦しみを動悸、発汗、筋肉痙攣を伴う不安発作と表現しています。一般にパニック神経症は青年後期、30代半ばに始まりますがダーウィンはその時は27歳でした。彼は社交的学生であり大胆な旅行家でまた大変なアウトドア人間でありましたが、僅か彼の偉大な旅の1年後、すなわち5年間に渡る南アメリカ、太平洋の旅をした直後の1837年不愉快な心臓の動悸を訴え始めます。この症状は後に大作進化論に凝縮するノートを書き始めた直後に起きはじめています。

パニック神経症とは

パニック神経症は繰り返し、しかも予告無しの恐怖に襲われます。殆どの人は何時襲われるか分からないし、何時何処で襲われるか不安に思うあまりその症状が悪化します。何時来るかも知れない発作を予期して苦しみます。発作に襲われると心臓は動悸し冷や汗をかき気が遠くなったり目眩がします。その時手はうずいたり無感覚になったり、顔が火照ったり悪寒に襲われたりします。胸痛を覚え窒息死するのではと恐怖し、現実感をなくし手におえなくなり、最悪を予期します。殆どの症状は数分で終わりますが時々10分ほど続く時がありまれには1時間以上の時もあります。パニック神経症は人口の1.6%におよび女性には男性の2倍の数が見られます。年齢に関係無く現れますが、多くは青年期に発生します。パニックを経験した人が神経症を併発する確立は低く多くの人が1度経験しただけでその後は発生しません。パニック神経症は発病すると治療を要しほっておくと重大な障害を引き起こします。
パニック神経症は多くの場合鬱や酒依存を伴い、色々の恐怖症を派生させます。例えばエレベーターに乗っている時襲われた場合、エレベーター恐怖症をおこしそれ以後エレベーターを避ける様になります。ある人にとっては生活は大変不自由なものになり買い物、運転、あるいは家を出る事さえ困難になります。誰か家族の者、あるいは信頼出来る人がいなければ出る事も出来ない場合もあります。患者は多くの場合恐怖が発生する場所を避ける様になり生活は大変不自由になり、約3分の1のパニック神経症の人たちがいわゆる広場恐怖症と言われています。パニック神経症になる傾向は遺伝と関係あると言われますが早期に手当てすればその進行を止める事が出来ます。研究によると精神療法例えば認知ー行動療法あるいは薬もしくはその両方で70ー90%の患者に効果があると見られています。はっきりした回復は治療開始6ー8週間以内に認められます。
認知ー行動療法とは患者にパニックが起きた時、それを今までとは違った理解をするようにするものです。例えばその時深呼吸して不安を和らげたり注意を別の方向に向けたりする技術です。
もう一つの認知ー行動療法に恐怖訓練があります。この訓練によって患者はパニックを緩和する事ができます。例えば患者を恐怖にゆっくり向き合わせる事によって次第に慣れる様にします。
ある患者においては処方薬が大きな効果を発揮しそれによりパニックの再発、頻度、激しさ等を押さえる事が出来ます。今までに効果がありと見られている薬に2種類あり、それは抗鬱剤とベンゾジアゼピンです。

社交恐怖症

社交恐怖症とは社交的場で恥ずかしい思いをするのではないかと強く恐怖する神経症で特に他の人の前で失敗するのではと強く恐怖します。多くは遺伝の傾向があり鬱とアルコール依存が伴います。発症は青年前期に始まりますが子どもの頃に発病する事もあります。
もし貴方が社交恐怖症になると他の人は人前で上手くやっているのに自分だけ上手くやれない様に感じます。小さな失敗が取り返しのつかない大きな失敗に思うし、赤面する事が耐えられないほど恥ずかしく感じるし,他人の眼が全部自分に注がれているように思える。自分の親しい人といる以外は不安に思うし人前でスピーチをするのに非常に不安に感じ、貴方の上司に話したり地位の上の人に話したり、デートするのも困難になります。最も典型的な症状は人前で話せない事であり、それが発展してあらゆる会合を恐怖するようになります。希には症状が悪化して公衆トイレ、外食、電話、人前で文字を書く事等を恐怖します。
この神経症は内気と混同されますがこの両者は同じではありません。内気の人はそう言う場面で不安ではありますがそれを予期して激しい不安を発生させません。また必ずしも意識するあまりそう言う場面を避けるわけではありません。それに対して神経症の人は何時も恥かしがり屋では無く、大抵の場合は不安を感じなくある一定の場面、例えば会場の通路を歩いて行く時とかスピーチをする時激しい不安発作を引き起こします。社交恐怖症は普通生活に重大な影響を与えて例えば仕事の昇進を与えられても人前に出るのを恐怖するあまりそれを断ってしまう事もあります。予期不安は数週間前から起こり症状はだんだんその人に重大な影響を与えます。
社交恐怖症の人は皆彼らの恐怖が意味のない事を知っています。それでも予期不安は強く、次第にそれを避ける様な生活を送ります。たとえ恐怖に立ち向かって何とか乗り越えてもその場面の以前もその間もずっと不安に襲われます。その後もこの不安は続き回りの人はどう自分を思ったかとか症状が人に分かってしまったかとか思い悩みます。
約80%の人が認知ー行動療法あるいは薬によって症状を和らげる事が出来ます。この療法は社交場面を違った風に理解するように学んだり恐怖を発生させる場面に自分を暴露させて慣れさせたり、不安を少なくする方法、リラックス訓練、社交術等を学習します。
薬には抗鬱剤であるMAO拮抗剤が有力であり、演奏家で神経症で悩む人はベーターブロッカーと呼ばれる薬を演奏の日に飲んでいます。

全般恐怖症

全般恐怖症の恐怖は他の不安症の人が日々経験する不安より高度のものであります。症状は実際には起こらない事に不安を感じより慢性的で拡大されたものである。この神経症においては何時も悲劇的な結果を予想し例えば健康、仕事、家庭、お金等過度に心配します。その心配の原因をはっきり表現出来ない事もあり1日をどう過ごすか考える事そのものが不安の原因になる事があります。患者の多くはこの不安が根拠薄弱と思うにも関わらず観念を振り払う事が出来ません。彼らはリラックスが出来なく不眠障害を訴えます。多くは不安と同時に身体的症状を伴いそれは振え、痙攣、筋肉緊張、頭痛、いらいら、発汗、顔面紅潮等。その他ふらつき、息切れ、吐き気、瀕尿、あるいは喉に異物等。この神経症の人は一般的にびっくりしやすく、疲れやすく集中出来なくある場合は鬱を伴います。

鬱は多くの場合不安神経症に見られます。鬱の症状は無力感、希望の無さ、悲しさ、し好の変化、不眠、集中欠如等であり最近の抗鬱剤で改善でき鬱の強さにもよりますが心理療法によっても効果があります。


全般的恐怖症の患者は一般にそれほど生活や仕事で行き詰まる事はないし、ある一定の場所を避ける事もありません。しかしそれが悪化すると日常生活にも大きな障害となる事もあります。大体は子どもの頃および思春期に始まりますが、大人になってから発病する事もあります。女性に頻度が高く、家族にも多く発生する傾向があります。診断は日常的な問題に過度に悩み始めてそれが少なくても6ヶ月に及んだ事を基準とします。一般的にこの神経症は年が行くと共に改善される。薬としてはバスピロンあげられ、いまベンゾジアゼピンおよび抗鬱剤が研究されている。さらに効果的療法として認知ー行動療法、リラクゼーション、筋肉緊張を和らげるバイオフィードバック等があげられます。

自分で良くなる方法

パニックに対処する10ヶ条
1) この異常感覚は自然な体の反応であると考える。・・・過大視している。
2) この異常感覚は危険で無い。・・・少し不安なだけである。
3) 恐ろしい考えを上乗せしない。・・・否定的な不愉快な結果を想定しない。
4) 今起こっている事を表現する。・・・一体何が起こって何が起こって無いか、何を恐れているか。
5) 不安が自然に去るのを待つ。・・・不安に対して戦ったり逃げたりしない。それを受け入れる。
6) 不安は自然に減衰する事に注目。・・・戦って不安を強めなければ自然に消える。
7) 進歩の為の良いチャンスととらえる。・・・上手く処理する術をその時学び成長の足しとする。
8) 苦しんではいるが今までの進歩を考えてみる。・・・今回成功すればどれだけ嬉しいか考えて見る。
9) もし今、不安を感じないのなら自分の周りを見まわし次に何をするか考えはじめよう。
10) やれそうなら、易しい事からリラックスしてやろう。努力したり急いだりする必要は無い。

不安を切抜けるヒント

1) ”もし、だったら”から”だからどうなんだ”に変える。
2) 現在に留まる。
3) 貴方の不安感を自分で診断しない。
4) 不安感は実際起こった事では無い。
5) 不安感で自分に何を言い聞かせようとしているのか。
6) 自分は今認識している自分である。
7) やればやるほどもっと出来る。
8) 前にそれをやったからもう一度できる。
9) ここ、あるいは安全な場所で自分はまったく同じ自分である。
10) 大丈夫、それは出来る。何も恐ろしい事は起きない。
11) 不安感は苦痛だが危険では無い。
12) 現実には何も自分を傷つけるものはここには無い。
13) ペースを落とす。
14) 不安は大変高まるがその後自然に消える。
15) ゆっくりやって深呼吸する。

パニックになるな

1) 不安感を受け入れよう。貴方を傷つけるわけでは無い。
2) 不安を感じる自分を許そう。
3) 肯定的な言い方で自分に言って落ち着こう。
4) 鼻から深呼吸。
5) あるがままに任せよう。
6) 気を紛らわせよう。単なる不安以外の何物でも無い。
7) アドレナリンをつかって肯定的な物事すなわち仕事、勉強をしよう。
8) 1日中塞ぎ込むのは止めよう。
9) どんなに苦しい事に会いつつもここまで来た自分に感謝しよう。
10) 時間が過ぎ去るのを待とう。 すべては過ぎ去るのだ。

行動療法

行動療法は一般的に不安神経症、恐怖症、強迫神経症の治療に使われて成功しています。この療法の目的は不愉快な神経症的不安発生を押さえたり、除去する事を目指します。患者には不安を発生しない環境を作り出しそれを習熟させ、その後敢えて不安を発生させる場所に患者を誘導しそれに暴露させて慣れさせる。最も有名な方法は特に恐怖症に適用されるものですが計画的鈍磨療法あるいは相互抑制療法と言われています。その目的は今まで学習した恐怖に対してそれとは両立しない別の恐怖を刺激により起こして本来の恐怖を消滅させるものです。相互抑制とは恐怖どうしがお互いに消しあう事を意味します。セラピストは患者が恐怖を逃避したり避けたりす行動を次第に学習した行動と解釈します。何故なら患者はそうする事によって当面の恐怖を回避できるからです。その恐怖を患者は克服した事は無くまた十分それに耐えた事も無い。患者は繰り返し恐怖を発生する状況に向き合い身体的にリラックスした状態で恐怖に慣れる様に訓練する。リラックス状態と恐怖とはお互いに力を相殺する。患者はこの間筋肉の弛緩や他の技術例えばバイオフィードバック等で快適に感じるように訓練をする。バ イオフィードバックとは生理学的情報を電気的にモニターしそれを患者に伝えて意識的にある程度コントロールする方法である。患者はこの間、階層に分けた不安場面に弱から強へと順に刺激と向かい合う。1つずつ成功する事によってさらに上の段階に容易に移行出来る。この訓練にはセラピストは直接には携わらない。多くはテープに録音したものかあらかじめプログラムされた指示に従う。
やはり現実場面で訓練して慣れるのが一番早くしかも効果が長く持続するが、それが出来ない人にはイメージを連想させそれに慣れさせた方がより楽に開始できます。この不安の階段を登る事を大変不安がる患者には目を閉じてリラックスさせ繰り返し最初の段を超える事をイメージさせ次の段に進ませる。そうする事によって最後に現実場面で既にイメージ訓練で成功した経験を踏まえて首尾良く成功させる。

Flooding

相互抑制療法あるいは段階的訓練法が恐怖症治療に必要かどうかは必ずしもはっきりしない。一気に深い所に飛び込んだ方が浅い所を歩いているより効果があるかも知れない。崖縁を大股で歩いた方がだんだん階を上げながら窓から外を覗き込むよりより効果があるかも知れない。この最も苦しい場面から始めて慣れる練習をするのがFlooding と言われイメージしながら同じ事をするのをImplosionと呼ぶ事もある。セラピストはそのタイミングと不安の内容をチェックし患者はリラックスする代わりに思いきり不安と向き合い次第に消えて行くのを待つ。Floodingは計画的鈍磨訓練より効果が現れるのが早いが再発も起きやすい。そしてこのやり方は患者にとってかなりきついものとなる。
強迫行為患者には行動療法の内、暴露と反応抑制と言うやり方が用いられる。これは一種のFloodingで強迫行為は逃避、避けようとする行為と理解される。患者は不安を発生する場所におかれ、しかも何時もの強迫行為を止めさせられる。例えば手洗い行為の患者はわざと汚れる作業をしてなお且つ手を洗う事を許されない。蛇口の取っ手は外されているか、水は終日止まっている。この暴露訓練は汚れに対する過剰の感受性あるいはそれに伴う不安感を無くし反応を抑制する事によって強迫行為を除去あるいは減じさせる。

強迫観念

強迫観念は強迫行為より治療が難しい。何故なら強迫行為程明白な行動が見られないからである。強迫観念患者はやはり強迫行為をしたい欲望に駆られる。彼ら絶え間無くドアーが鍵が掛かっているか確かめ誰か人をはねていないか車で戻って再確認する。ここでも反応抑制療法が応用される。患者は強迫観念を起こすように命じられしかもその観念に影響されないようにイメージの上で訓練する。この観念の連鎖を断ち切る方法に思考停止法があります。患者は強迫観念が現れた時ストップと声を発生する様命じられます。その後次第に声を出さないで思考を停止する訓練をします。この療法は強迫観念症に有効だが他の化学療法とか認知療法とかが必要な時がある。



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